NOVAL

□kissing you
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セキュリティがかかった重たい扉を開け、玄関ホールに入る。外観通り一階は真っ暗だった。手探りで右の壁にある玄関の明かりをつけ、窮屈な革靴を脱ぐ。
「はあ…」
ご飯を食べて、シャワーを浴びて、ちゃんと支度をして寝たいものだがもう眠気と疲れは最大だった。今週はどうにも血を見たい人が多かったらしく、他の探偵と毛利探偵を合わせても働き詰めだった。(報酬を貰っているわけではない)
昨日も一昨日も真夜中を越えての帰宅で、透の疲労感は今までで最大だった。
夜ご飯は朝ご飯にシフトを変え、シャワーも登校前にさらっと浴びてしまう事にしよう。今日はこのままワイシャツが皺になるなどすっかり忘れてベッドにダイブしよう、と決める。
疲労で重い体を引きずり、我がベッドの待つ二階への階段を上がる。

透の部屋の手前、愛美の部屋の扉が僅かに空いている事に気づく。其処から音が漏れている。
「……?」
何事かと、女性の部屋を無断で開けるのに気が引きつつも、心配心の方が勝って恐る恐る扉の隙間から覗く。当然部屋の中は暗闇に包まれている。が、部屋に備え付けられたコンポから曲が流れていた。
“ETERNAL SNOW“
愛美が好きな、米国の女性シンガー。孤児院から此方に来る時、私物としてCDを持って来たのだった。勿論米国のシンガーだから英語に決まっている。聞き流して何となくの意味を悟る。CDにはこれ一曲しか録音されていないようで、何度もリピートされる。

『君をいつまで 思っているんだろう、溜め息が窓ガラス 曇らせて
揺れる心、灯したキャンドルで今、溶かしていけないのかな?

お願い、きつく抱きしめて こんな思いなら 誰かを好きになる気持ち知りたく無かったよ
大好きだから 涙が止まらない こんなんじゃ君の事、知らずにいればよかったよ
お願い、きつく抱きしめて 折れるほど強く 木枯らし吹雪にあっても寒くないようにと
会いたいよ 君を想う度 編みかけのこのマフラー 今夜も一人抱きしめるよ 
永遠に降る雪があるなら 君へと続くこの思い 隠せるのかな…

大好き 胸にこみ上げる 冬空に叫びたい 今すぐ君に会いたいよ』
多分、訳すとそんな所。
「hold me tight…か」
いつも愛美は、陽の当らない奥の隅で、一人きりで泣いている。暗い所で泣くならば、永遠に陽のあたる明るい場所に留まっておけばいいものを…“優”を思い出すのは隅がいいのだと言う。思い出す事は、愛美に必要な事らしい。ならどうして、そんなに泣くんだ。
確かに俺は、お前にとって同居人にすぎないし、記憶が無いのなら知らないのは当然だ。
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