NOVAL

□kissing you
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だけど、その涙を止めるくらいの事は出来る。優に出来て俺に出来ない事なんて無い。愛美を心から愛している一人として、いつまでも泣いていて欲しくない。愛美はきっと、笑顔が一番に似合う女性だ。
愛美にとって、優がどれほどに大切な人だったか優を話す時の愛美の瞳を見ていればわかる。本当に優しくて酷く切ない色をするんだから。


そんな、恋人の事を思い出して笑うお前でも、俺は"綺麗"だなんて思ってしまう。
過去の事を、簡単にあいつに"忘れろ"は言えない。けれど、愛美への今から降ってくる悲しみは俺の手で払って、防いで、守ってやれる。それがいまの、精々の俺の役目だと言い聞かせている。
傷ついたお姫様が、いつか応えてくれるその日まで。


コンポの横の、眠り姫を覗く。
フワフワと綿の布団に包まれた彼女は、携帯に映した、優の写真を顔の横に置き、この曲に聞き入っていたのだろう。
幸せだったのだろうか?
答えはNO、横を向いた愛美の閉じた目から沢山の涙が零れている。頬の下のシーツも染みていた。雫の後が頬に残っている。

そんな悲しい情景でも、酷く美しいと思ってしまう、自分が疾しい。


いけない事とは知りつつ、分かりつつも、涙を流す眠り姫に顔を近づける。

ちゅ………
小さく響いた水音は、疲れ切った透の心を柔らかくしていく。

『いつかは…な』
Hold me tight  俺が愛美をそう抱きしめる日が来るまで。
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