NOVAL

□requiem
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花皇の奴に捕まった後、
少し桔梗の夢を見た。

「犬夜叉、さあ…。」

そう微笑んで手を差し伸べる桔梗。
桔梗の手を取ったら、俺は桔梗の元に
行けるのだろうか………。
迷う中かごめの、凛とした声が頭の中に
響く。

「犬夜叉、どこなの!?!?!?!?!?!?」

そうだ、俺にはかごめが居る。
かごめを残して、俺は逝けない。
それは奈落を倒してからだ…。

「ごちゃごちゃうるせぇ…」

花皇の弦を断ち切って、そこから逃げようとするが次々に蔓は俺に取り巻き、
心の臓を引き摺りださんとしている。
俺の力あっても、肉弾戦は強くとも
心理戦はてんでダメだ…。
弦があと少しで心の臓に達する時、
一筋の閃光が眼前を通る。
それはかごめの放った矢で、かごめが
側にいる事を知らせるもの。
花皇に矢が刺さると、蔓は犬夜叉の身体から剥がれおち、相当な痛手を負ったのか
花皇は花のなか深く潜って行った。
かごめの矢が来た方向は、全て壁や襖が
薙ぎ払われておりかごめの霊力の
強さを証明しており、もしあれで一寸でも
間違い俺の手に掠っていたら…ゾッとする。

「かごめ!!」
屋には弥勒の魔よけの数珠が
巻き付けられており、数珠がかごめの
手から離れたという事は、かごめは
今花皇の格好の餌食。
外に出ると、花皇の弦たちにかごめが
絡め取られていた。

「かごめっ!!」

急いで駆けより、絡みつく蔓を引き千切ると、こちらに抱きよせる。
揺すっても、かごめに意識はない。
遠くから、花に隠れて行った花皇が言う。

「気づきませんでした… 
その娘の魂は極上の味だ…
あるいはあなたより傷ついている…。
娘を傷つけているのは…」

己の胸の中に抱かれている小さな少女が。
小さくとも広く優しく
温かい心を持つ少女が。
一転の陰りもない心を持っていると
思っていた少女が。
愛しい、少女を。

「あなたです…」

こんなに、抑え込むように
傷つけていたのは…俺だった。
知りもしなかった。
いつも笑っている少女だから。
かごめ、お前にも闇があるなんて、
それに気が付けないなんて。
自分ばかり、傷ついていると可哀想だと
思っていた。
だけどその俺を見ていたお前の方が、
傷ついていたんだな。
未だ覚めようとしない眠る、かごめを
見つめるただ、懺悔の言葉しか出てこない。
これが、俺の選んだ結果なのか…?
信じてやれなかったせいで、死んで
しまった桔梗を今度こそ守ると。
俺を変え、日のあたる場所に
連れだしてくれたかごめも守ると。
大切なものは「たった1つ」だからこそ、
意味があると言うが…
「1つ」じゃなきゃだめなのだろうか。
「1つ」ではないから…両方とも
逃げてゆくのか?
二兎追うもの一兎も得ずというが
まさしくこの事。
欲張ったせいで、俺の手から逃げてゆき
結局何も残らず、50年前の俺に戻る…。
もう失いたくない。そう思って我武者羅に
やってきた、この1年。
しかしそれはすべて無駄だったのだろうか。
幾ら揺すっても、闇に囚われたかごめの魂は戻るはずもなく
犬夜叉の身体には再び弦が絡み始める。

「なっ…!?」

瞼の裏に、桔梗の姿が浮かび上がり始め、
急な眠気が襲う。
顔を一叩きすれば、目も覚めそうだが蔓に
手を塞がれているからそうもいかない。
このままではまたかごめが。
残りの理性1%をどうにか保ちながら、
まだ自らの腕の中に居るとかごめを
確認する。
しかしかごめにも蔓は絡み始め、
1%の理性ではいつもの半分以下の力も出ず
容易く蔓にかごめを奪われ、花皇の元に
かごめは離れてゆく。

「かごめっ…」

蔓は力を増したように見えたのは
思い過ごし。
花皇の背後に見えたのは奈落。
花皇を配下にしていたのは、
奈落だったのである。

「奈落… お前ら組んでやがったのか!」

蔓に絡まったかごめは花皇を通り越し、
奈落の腕の中に収まる。
1番恐れて居た者同士が、触れた瞬間。

「はは、犬夜叉、抜けたものだな。
桔梗を救うどころか、かごめさえ守れない。
心の弱さを隠しきれない、半妖と言うものは所詮この程度なのだ。
桔梗が死んだ今、四魂の玉を探せるのは、
かごめのみ…。闇に落ちたかごめは
2度と犬夜叉を受け入れない。
こちらの戦力として貰ってゆく…」

花皇は幻だったのか。さらさらと風に
溶ける音を立てて消滅する。
かごめを手にした奈落は少しずつ上空に
去っていく。

「待てっ、奈落!!」

花皇が消えた瞬間、蔓の威力は減退し、
瞼も軽くなる。
急いで刀を鞘から引き抜くが、一振りでは
奈落に届かず
思い切り振りおろした所で、万が一
かごめに当たると言う事も考えられる。
それ以上の追跡は出来ない。

「悔しかったら、四魂の玉をすべて集めて
妖怪になる事だな、犬夜叉!
はははははははははははははははははははは・・・・」
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