NOVAL

□requiem
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「本物の…かごめじゃろうか」

結界の中の七宝が目を丸くさせて呟く。

「恐らく…先程から霊力を感じていました。
 犬夜叉にも…痛いほど分かっているだろう。」

弥勒が言うまでもない。
犬夜叉の目に、耳に、鼻に、
全てが…かごめであること
嫌でも分かる。だから鉄砕牙は錆び刀に
戻ったのだ。

「かごめ… どうして…」

犬夜叉が何を言っても、かごめの耳には
届かない。
破れた布の下は、巫女装束。
目は虚ろ、輝きのある漆黒の瞳は、深い、深い闇の色に染まっている。
本来犬夜叉を見る、慈しみの情はない。
あるのは、憎しみの情だけ……

「殺す!!」

手には破魔の力、犬夜叉には命にかかわる。
同時に犬夜叉はかごめに手出しできない。

「ちっ!」

今度は犬夜叉が防戦一方だ。
手も足も出ず、時たまあたる破魔の力に、
体力を消耗しているらしい。
だいぶ息の根が上がっている。

「大丈夫か! 犬夜叉!」

結界の中から弥勒が声を掛ける。

「だ、大丈夫だ!」

苦し紛れに犬夜叉が立ちあがる。
しかし相当な痛手を負っている、
このままでは………。
弥勒が釈杖を持ち直し、奈落の仕向けた雑魚妖怪たちを珊瑚と七宝に任せ自らは結界に
一目散に走る。ありったけの力を釈杖に
籠めると結界に一点、
破魔の札を張り付けて力のこもった杖の
先を札と共に結界にぶつけた。
『くっ…思ったよりも結界が強い…』

「あああああああーーーーーっ」

弾き飛ばされそうになる体を足に
力を込め踏ん張る。
汗が滲んで落としそうになる釈杖を
再度握る。ここで結界を破らなければ
犬夜叉は…死ぬ!
千切れた仲間達を元に戻すべく、
弥勒は奮闘した。その結果
風船が割れるような、空気の破裂音が
すると結界は破り去った。
結界が消滅した事を確認すると
その場にへなへなと腰をおろし、
溜息を漏らした。

「法師様! 大丈夫?!」
雑魚妖怪を一通り倒しきったのか、
飛来骨を下げて珊瑚が駆け寄って来た。

「珊瑚…大丈夫です。一度に力を遣いすぎ
ました。霊力ゼロというわけですが、
体の方は問題ないので心配する事はありません。なんなら、体の方が大丈夫かどうか
試してみます?」

最後の弥勒の言葉を何度か頭の中で
反復させた珊瑚が、要約意味が
分かったようで顔を赤面させると、
掌に力を入れしっかりと指を伸ばし、
弥勒の右頬目指し高く振り上げた。
あとから七宝がやって来て、
弥勒を心配した。

「弥勒、大丈夫か! 
さっき何か叫んでた様じゃが…」
「法師様、大丈夫みたい。」

七宝が言葉に詰まったのは、弥勒の右方に
赤い紅葉が鮮やかに咲いていたからで、
隣に珊瑚と言えば、今何があったのか、
容易に想像できたので
それ以上追及するのは止した。

「犬夜叉!一旦引くぞ!」

これ以上の戦闘は、犬夜叉にとって
不都合だ。
敵はかごめで攻撃できず、破魔の力を
持ったかごめには犬夜叉は
全く太刀打ち出来ない。
解けた結界の中で、防戦一方の犬夜叉に
声を掛けた。

「だ、だけどかごめが…」

このまま自分のために一度引いたとしたら、かごめは奈落の元へ戻らなければ
ならないのか。
それだけが、今の犬夜叉をこの場に
とどめている理由だった。
女の事となっては、妙に気が弱くなってしまう犬夜叉を七宝は納得ができなかった。
弥勒や珊瑚とて、仲間のかごめをこのまま
置き去りにしてまんまと
奈落の元へ戻すのは惜しい。
どうにか、かごめに掛かった暗示を
解いてやりたいが、
先程結界を解いてしまった弥勒には余力が
無く、しかもかごめ叶う力では無いし、
それ以外に仲間の中で解けるものも居ない。
ここから引くのは、犬夜叉の身を
案じたための苦肉の策なのだ。

「犬夜叉!」

すると犬夜叉は、気が触れたのか今まで
身の安全のため自ら近づこうとしなかった
かごめの間合いに入り始めたのだ。
破魔の力にもし掠りでもすれば
生死の境目を通る事になるのだが、
それを上手く交わせるなら人間の女で
あるかごめよりも遥かに大妖怪の
子供である犬夜叉は戦闘力が高い。
髪一本でも触れないように細心の
注意を払いながら、
かごめの懐に潜り込むと腹に向かって
肝が壊れない程度に、拳を入れた。
上手い具合に入った拳で、かごめは
そのまま気絶し倒れそうになった所を
犬夜叉の腕が抑えた。

「かごめは、大丈夫なんじゃろか?」

気絶し、犬夜叉に抱かれたかごめを
不安げに七宝が近付いてきて、見上げた。

「わからねえ。でも取り敢えず楓の村に
帰ろう、あいつならなんとか
できるかも知れねえ。」

かごめが直ぐに目を覚まさない事を
祈りながら、一行は楓の村へ帰路を取る。
しかし、帰る途中かごめは犬夜叉の
背なかで目を覚ましていた。
恐るべきことになっているとは……


かごめが舌を噛み切っていたのだ。

いつものようにかごめを背におぶって、
珊瑚弥勒七宝は雲母に乗って
楓の村へ急ぐ。微かな暖かさと、
ほのかにかごめの花の香りがやんわりと
鼻を擽る。
焦り過ぎて、気づいていなかったのだ。
もしここで、かごめの血の匂いに
気づいていたら…
こんなことにはならなかったかもしれない。









第2章→despair&hope
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