NOVAL

□despair&hope
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本当は今の今まで奈落に操られていたのだ、犬夜叉はかごめを一人きりに
なんかさせたくない。
一人にしたら、本当に今度は目の前から
消えてしまうかもしれない。
でも、今さっき甘えろと言ったのに
ダメだというのは辻褄があわなすぎる。
仕方が無く、渋々承諾した。
しかし条件付きで

・すぐに戻って来い 
・何かあったら大声で叫べ

何ともない犬夜叉の駄々だとかごめは
感じていたが、犬夜叉にとって心配の
何以外でも無かった。
暖簾をくぐるまで犬夜叉は条件を
ずっとかごめに向かって
耳が蛸になるまで言った。

「わかったから、大丈夫よ」

暖簾の向こうへ出たかごめを見送ると、
気配が何処へ向かったのか自身を集中させ
追っていた。

かごめは一人、そんな犬夜叉の状態を
知ってか知らず、後ろを気にしつつも
犬夜叉の森麓に流れる、
村に沿う小川の畔に来ていた。
手ごろな石に、腰掛け溜息をつく。

「なんか、犬夜叉変だった。」

いつも以上に優しい…
一人行動するのはいつも大反対するのに。
薄々かごめの脳裏に浮かび上がってくる
回想が、何故なのかを物語っていた。
私が犬夜叉を、襲う映像。
しかしかごめの記憶には残されていない、
その回想。
記憶では無い、体が覚えている何か。
体が覚えている記憶なのか…?
私に何が起こったって言うの…?
初めて自分自身が怖くなった。
今までにも、この世界に来て初めて
破魔の力を使った時や矢を放った時…
自身の力を怖いと思った事はあったけれど、それは凄いという意味が含まれていた。
私の巫女としての、潜在能力…
でも今感じた怖さは、それとは逆の意味を
示している。
元々持っていた力では無く、今しがた私の
中に入って来たような、それも無理やり…
体のどこかに、自分では無い何か、
異質のものがある―――。
だから、犬夜叉は私に優しかったの?
本当の優しい理由は、少し異なるのだが
今のかごめに分かる予知はない。

「いや…怖い…」
泣きながらかごめは立ち上がると、
河原の石ころでふらふらしながらも
どこかへ向かって歩き始めた。
本人もどこへ行くつもりなのか
分かっていなかったのだが。
足を進めるごとに、頭に何かが響く
…頭痛だ。
丁度額の真中から頭が2つに
割れるような痛みが
歩くたびに強くなり、かごめを襲う。

「もうわからないよ…」

朦朧とする意識の中で、かごめ自身
森の中へ足を踏み込んだんだと感じた。
足元に新緑が広がり、青葉がチクチクと
踝に当たる。
平坦な道を、少ししか歩いていないのに
こんなに息が上がるなんて…
頭痛のせいか…

かごめは気が付いていなかった、
目の前に崖が存在する事を。
もちろんこの崖には幾度か足を運んでいる。犬夜叉と。
そこはそれほど高くはないが、
村を一望できるから村人の間でも
有名である。
もしそこに誰かがいたら、
崖に真っ直ぐ進むかごめを
引きとめられたかもしれない。
丁度運悪く、村の景色を眺望しに
来ている人は一人も居なかった。
一歩ずつ、重い足取りで崖へと向かう。
気づかずに。
一歩、一歩、また一歩…
そして一歩踏み出した時、
噛締めたのは新緑の広がる地面では無く
真っ逆さまに落ちる、空気…
その前にふらついて、
今度踏み出した足には力を込めて
体制を整えようと考えていた。
まさか先が無いなんて、
頭痛がしなければ気が付いたのに。
重心が右足に掛かっていなければ、
足を引き戻せたのに。

「きゃあああああっ」

そのまま逆さに、地面に落ちて行った。
崖の下は幸いそれほど崖の高低差は無く、
草木が鬱蒼として居る場所で
最悪の状態は免れた。
けれど落ちる途中、生えている木の枝や
草や石で体を損傷していた。
右腿や肘は枝で出血し、
足や腕は打撲して動けない。
全身がうけた事のない痛みに襲われる。

「い、痛いよ…」
瞳から大きな粒が流れ始めると共に、
かごめの心と同じようだった灰色の空から
涙が降ってくる。

「雨…」
空からの涙は次第に強くなり、
かごめの体を冷やしていく。
それと共にかごめは意識を手放した。
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