NOVAL

□despair&hope
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目を疑うほどの酷い負傷のし方。
今まで匂いがしなかったかごめの匂い。
安心するかごめの優しい匂いの筈が、
血の匂いが鼻腔いっぱいに広がり
鮮血に染まった制服が目に飛び込み、
犬夜叉は嫌悪感でいっぱいになる。

「犬・・・・や・・・しゃ・・・・?」

目は閉じたままだが、
口が僅かに動き力無く犬夜叉を見つめる。
口から一筋、鮮血が草むらに滴り落ちる。

「かごめ! 大丈夫なのか!?」

震える手で、かごめの手を握る。
かごめの手は冷え切っていた。
この雨で手が悴んでいるのか、
命が付きかけているのか判断は難しいけれど
犬夜叉の不安を煽る事は出来た。
どちらにせよ、
犬夜叉の監督不届きだからだ。
上の着物を脱ぐと、かごめに羽織らせ
凍え冷え切った体を抱きしめ。
自らの体温で温めてやる。

「犬夜叉、来てくれたの…?」
こんな時さえ、弱音も体に
走っているであろう苦痛も吐かず
犬夜叉を心配させたくないのか、
嬉しそうに笑って言うかごめ。
桔梗もそうだ。
巫女だから、四魂の玉を持つ皆から
尊敬される巫女だから、自身の弱音は吐かず
ただ聴くだけで、それを犬夜叉は知らずに
甘えてばかりでもっと互いの弱さを見せて、犬夜叉だけ甘えるのではなくて、辛い、
苦しい時「つらい」「苦しい」と
言えるような関係を、場所を、
自分を作らなければいけなかったのだ。
だから、いつも悲しませるんだ。
2人も大切な女を護れずに
自ら傷つけるのだ。
だから桔梗も、かごめも離れて
行くんだ・・・・

「当り前だ、でもすまねえ遅れちまって…」
「い…いの…よ…、
犬夜叉は来てくれた…わ…」
「かごめ!」

それでも笑うかごめの姿が痛々しくて、
これ以上見ている事が出来ず
犬夜叉はかごめをさらに強く掻き抱く。

「…?」
「本当の事を言え。」
「え…?」
「辛いとか痛いとか、そう言う事…
俺に気を遣わなくていいから言え。」
「そ、そんな事…思ってな…」
「嘘つくな!」

何かを隠そうとするかごめに苛立って、
図らず怒鳴ってしまった。
かごめは驚いて肩を竦め、犬夜叉を
見上げた。

「ごめん…」
「俺…お前の本音が聞きてえ。
そうじゃないと…お前また我慢するんだろ?」
「我慢なんか…」

首を左右に大きく振って、俯いたかごめに
無理やり顎を持ちあげこちらに向かせる。
無理やり顔を持ちあげられたかごめは目を
見開いていたが、その瞳には涙があって
上を向いた瞬間沢山毀れ落ちるほど、
泣いていた。

「我慢するな…」
「言ったら、犬夜叉あたしの事
嫌いになるよ。」

泣いているかごめは何度も見た事がある。
俺や仲間達に向けられた感情としての涙。
けれど今まで見てきたなくかごめの
どれにも当てはまらない、見た事のない
女の、かごめがいた………………

「構わねえ。嫌いになるもんか。」

それを言うなら、もうとっくにかごめは
犬夜叉の事を見限っていいはずだ。
かごめはそれを聞き、深呼吸を
ひとつすると少しずつ喋り始めた。

「本当は…私だけ見ていて欲しい。
いつまでも…ずっと…桔梗を見ないで
私だけ…犬夜叉の過去とか…辛い現実とか…未来とか分かってる、一筋縄には
いかない事とか思い通りに、
行くわけないとか、分かってるの。
でも…私は犬夜叉とずっといたいの…………………。犬夜叉にもそう
思っていて欲しくて…。」

大粒の涙が、かごめの瞳から流れ落ちる。
今の犬夜叉の耳には、雨音とかごめの
声しかない。

「みんなとも、離れたくないの。
四魂の玉が玉の形に戻るたびに
不安になるの、未来がどうなるのか。
いつまでもみんなとここで居たいのに…
でもあたしには向こうの生活もあって
…いつまでも入れるわけじゃなくて…
どうしたらいいのか、わからなくて…
桔梗が死んで、皆が悲しんで、
ううん犬夜叉が悲しんでいるのに
何もできない私が嫌で… 
桔梗の後釜なんて私には…できない。
私は無力なの…」

最後に一つ大きな雫が落ちると、
かごめの弱音は途切れた。

「ごめんね、こんな事言って、
嫌いにならないでね…」
「なるもんか、なるわけねえよ信用しろ。
むしろ俺は嬉しい。」
「ちょ…今私が言った内容分かってるの? 嬉しいとかそういう問題じゃないわよ」
「当たりめえだ。 ………俺知りたかったんだ。お前の考えてる事とか弱音とか」

いつも言わずについてきてくれて、
励ましてくれる君だから。
「そんなの…」
「だから、お前がそう言う事言うのが
うれしいんだ。時々言えよな。」
「それって…」

いつか地念児の所へ解毒剤を貰いに
行ったとき、かごめが犬夜叉に
言った言葉だ。
汎用として生まれたための苦悩と過去を
犬夜叉がかごめに話したのだ。

「確かにこの旅はいつか終わっちまう。
だけど俺達は仲間だ。離れない。
特に俺とお前はな。お前ひとりだと
危なっかしいだろ。」

強気で俺様ぶる犬夜叉だが、かごめに
そんな語尾は届いておらず
しっかりとかごめの想いは犬夜叉に
伝わっていることに感激していたのだ。
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