INUYASHA

□梅雨
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六月の下旬
春の終わり、夏の始まり。

あと一息で、輝く夏はやってくるのだが、その前に在るのがじめじめと、空を厚い暗雲が覆い雨ばかり降る梅雨がやってくる。

今は、丁度その絶頂だった。

奈落の情報も四魂の欠片の気配もせず、これ以上は無駄足だと考えた一行は、楓の村に帰ってきた。
犬夜叉は体制を立て直して、直ぐにでも出直したいと申し出たが、彼らの足止めを駄目押しするように、梅雨(ばいう)が降って来てしまった。

初めはしとしとと、優しく降る小雨程度だったため、犬夜叉も、犬夜叉を宥めていた弥勒も直ぐ降り止むだろうと試算していた。

しかし、この時期の天気は侮れない。
天文学なんて存在しないこの時代で、正確に天気を予報することは不可能。
現代でだって、天気予報士が天気を外すことも偶にある。
他の季節なら直ぐ止む程度の雨は、一向に止もうとせず、それどころか雨脚は一気に強まり、村のあちこちに大きな濁った水溜りが出来ていた。

木造の小屋は、簡単に雨を通してしまう。
火を囲炉裏に灯し、雨のせいで少し冷えて来た小屋内を暖めていたが、屋根から垂れて来た滴が、皆の意識を一気に集めた。

「楓おばば、雨漏りしておるぞ」

初めに気が着いたのは、七宝だった。
おや、と此の小屋の住人である楓は初めて知ったふうだった。

「あちこち開いてるよ、屋根」

珊瑚の膝上にいた雲母に、滴が辺り、ミャウ、と驚いた泣き声を上げる。
雨漏りしていたのは、七宝の座る頭上だけではなかった。雨脚が強くなったおかげで隙間がある所全てから、雨が滴っていた。

「これは修繕しなければ、この季節を過ごせんな」

何しろ、此の小屋を建てたのは自分がまだ白髪ではなかった頃だと笑いながら楓が言う。
つまり、見た目年齢からして現在楓は70歳。平均的に日本女性が白髪になり始める年齢は50歳前後…此の小屋は築20年ほどだと言う事だ。

「村の衆に頼むかのう…」

目を細めて、楓が言った。


「あら、犬夜叉と弥勒様が居るんだから、直してもらえば?」

それよりも、というふうにかごめが提案する。大工仕事は男の仕事、と決め掛かっているらしい。

「おお、その手があったが。じゃが…」

勝手に話を進めた建前、弥勒と犬夜叉の了解を得ずに決定してしまうのは、得策ではないと考えたのだろう。
その瞬間無言でいた犬夜叉と弥勒を、横目で楓が見た。

「私は構いませんよ、暇ですし」

頭の切れる弥勒は、この場は逆らわないほうがいい。と考えたのか、本当に善意からなのかはわからないが、何時も通りの笑顔で、弥勒は合意した。

そして沈黙を決めている犬夜叉に、皆の視線が集中する。

「…なんでい」

「だから、此の小屋の雨漏りしてるとこ、直してって言ってるの。私や楓ばあちゃんじゃ無理でしょ」

「わぁってるさ、けど、土砂降りじゃねえか」

「珍しい事言うのう、いつもならかごめのくれる傘を『俺の体は丈夫なんでいっ』とかいってつっかえすのに」

「うるせえ、時と場合があるんだよ」

「何が時と場合ですか、何時もお前にそんなものないでしょう。我々も此の小屋は使わせていただいているのです、そのお礼だと思ってほら、しますよ」

「雨に濡れるのが嫌なら、合羽があるから、ねえ犬夜叉?」

「合羽?」

かごめ以外の声が重なった。
この時代には、合羽の原料であるビニールはないのだ。

「これよこれ、雨をしのぐ傘も便利だけど合羽は服として着るの。傘よりは身動きとりやすいと思うよ」

全員分、あるんだよ
とかごめはリュックを手繰り寄せ中を漁った。
出て来たのは、勿論合羽。しかも色取り取りの。
己は黄緑、犬夜叉は赤、弥勒は紫、珊瑚は桃色、七宝は黄色、楓は白。


「こうやってきるの」

自分の黄緑色の河童を被り、やってみせる。

「やはり、かごめ様の国には便利なものが溢れていますね」

「これ、可愛いね」

「おらも着る!」

「わしにまで、悪いのう」

それぞれかごめに指定された合羽を手に取り、嬉々としている。よかった、とかごめは微笑む。そして視線は犬夜叉へと移る。

「ね?犬夜叉、お願い」

満面の笑みで、頼まれては無下にできない。
犬夜叉は溜息を吐くと、合羽を受け取った。

「しゃーねーな…」
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