NOVAL
□俺の彼女は
1ページ/6ページ
俺、黒羽快斗。
江古田高校に通う16歳。
故人ではあるが、今でも有名な世界的マジシャンで、世間を騒がせていた怪盗キッドの父と、実は結婚前怪盗ファントムレディだった母と言う一風変わった両親の元に生まれた。
どちらかと言えば影の道を行く二人だが、其の真意を知っている俺は、両親を誇りに思っているし、二人の間に生まれた子が、俺出逢ってよかったと、普段不信ではあるが神様に感謝している。
両親の共通点「怪盗」――――――
俺も二人の子に相応しく、其れの才能・運命を持って生まれ来たのかもしれない。
俺も今は、世間を騒がせている怪盗キッド。
親父が怪盗キッドだった事は、つい最近知ったばかり。勿論当然驚いたけれど、それよりも怪盗をやっていたせいで、親父はマジック中の事故死に見せかけられ本当は殺されて仕舞った事実に怒りを覚えた。
忙しかったから、あまり家に居たことはなかったけれど、厳しくてでも優しくて、自慢できるマジシャンの親父を尊敬し憧れていた俺は危険を承知で、親父の後を継ぎ親父を殺した奴らを見つけ出しぶっ潰すと、復讐を誓った。
そんないきさつがあって、今俺は昼間は本来の快斗として、夜は怪盗キッドとして生活していた。
何しろ毎度毎度警察の目を掻い潜ってお目当てのお宝を手にするのは骨が折れる。
知り合いの寺井ちゃんに手伝ってもらうけど、宝石のある場所の地図とか、警察を撒く為の仕掛けとかどんなハプニングが起こりうるか予想できないから、何通りもシュミレーションしてやんなきゃならねえ…
つまり死ぬほど疲れる。
ちょっと前までは、疲労に疲労を重ねた体を酷使して、寺井ちゃんに止められても知らんぷりでなんとか昼夜の生活をやり過ぎしてきた。
だけど今は、それはしない。
自堕落な生活を送っていると、長生きできなそうな気もするから、自分の為でもあるけど。
この世で一番大切な、アイツのためだ。
中森青子
俺の幼なじみ
俺の、一生好きな人
俺の、この世で一番大切な人
夜から昼の俺に変わって、怪盗の仕事で疲れた重い体を引き摺って、アイツの前に行くと「何してるか知らないけど体大事にしてよね」と心配する。
俺を気遣って心配してくれるのは嬉しいけれど、其の時の青子の眉を下げた瞳はどうしようもなく罪悪感を感じる。
そりゃ勿論、怪盗を、青子が一番この世で憎む怪盗キッドを秘密にしているんだから、罪悪感があるのは当然だけど、でも、コイツのために「無茶はできない」
怪盗キッドを続けるのは俺の信念だから、辞められないけど、アイツの為に「無事に戻ってくる」と誓ったんだ。
親父の仇を取る
と
青子の為に無事に帰ってくる
は、今俺の中じゃ同等さ。
青子とは昔からそうだったように、子供染みたものが続いているけれど、でもただの幼馴染とカレカノとは、明らか間柄が違う。
小さい事で喧嘩してしまうのは日常茶飯事で、必要事項に成りあがっているけど、お互いを大切に、寄り添いあえるようになった。
青子が俺に抱きついてくれる時だってあるし…
愛されてるんだって、最近は青子の行動から全部感じられる。凄く嬉しい事だよな。
だけど全部うまくいくわけじゃない。
俺の気持ちに問題とか、青子の気持ちに問題がある訳じゃないんだけど。
青子って鈍臭くて、名探偵の彼女のように空手とか合気道とか魔法を使える訳じゃないからすごく目立つ奴じゃない。
おまけに危なっかしいからクラスの女子に守られてる感じがある。
勝ち気で意地っ張りな所が目立つ時もあるけど、どちらかと言えば奥手。
付き合い始めるきっかけも俺からだったし、恋愛に関しては初心者。うぶでにぶちんで心や空気なんか読めない、奴だと思ってた。けど…
最近そうじゃない。
自分のことは愚か、周りの事情さえ察知できなかったお子様青子はどこへやら。180度逆になってしまったのだ。
昼休みの女子の恋愛トークの中心にいるようになったし、この間は告白のセッティングをしてた。
訳わかんないくらい、ふつうの女子高生化してる。
青子が精神的に成長して、ふつうの女子高生化して俺が困るのはただ一つ、自分の魅力に気づいてしまうことだ。
青子は小母さん似で美人。
クリクリした丸い目に、低いけど筋の通った鼻、ふっくらした唇に、桃色の頬、お人形みたいな容姿をしてる。
そんな可愛い青子を野郎共が放っておくわけない。
付きまとう、目にかける、群がる、寄ってくる。
ぽっと出の男なんかに青子をとられたくなんかないから、俺の必死で静かで姑息な根回しで、近づく男は六割カット。残りの四割は青子の鈍感で避けてきた。
自分がもてるとか、あいつが自分に好意を持っているとか、気づかなかったんだ。
だけど今の現状、他人の恋沙汰に気づき始めたアイツが、自分の魅力がわかって自分がもてているんだと感づいたら。
いい女が自分の魅力に気づいたら、もう並みの男(=俺)には手が終えない。
気心の知れた、というだけの青子にとっての俺なんか陳腐な存在でしかない。
もしかしたら俺の腕の中を飛び出して、どこかの誰かの腕の中に収まってしまうかも知れないんだ。
青子が俺を裏切るような、恋人を取っ替え引っ替えして、擦れてる女じゃないと分かってる。
だけど最重要な問題がただ一つ。
俺たち、「付き合おう」とか「前から好きだった」とか所謂告白をしてないんだ。
なんとなく、周りの雰囲気とか思い込みで、「中森青子と黒羽快斗は付き合ってる」。
恋人みたいにデートもする。
一緒に帰る。
休みの日も時間を共にしてる。四六時中メールか電話をする。互いの家を行き来してる。
ここまで条件が揃うと「付き合ってる」みたいで、「付き合ってる」らしく青子も行動してる。
だから青子は俺の彼女………?
青子の真意がわからない限り、俺の脳内ループは終わらない。
ああ、どうしろっつーんだ!