NOVAL

□女探偵 Let's go!
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事の始まりは電車の中だった。
世を騒がせる怪盗を追う父は、ここの所、署に泊り込んでいる。
その父に頼まれて、着替えやら洗面道具やら一式用意して、父の勤める署まで電車で移動中だった。

帰宅ラッシュの為か、人が多い。

父の勤めている警視庁の辺りは国会議事堂もあるし、国の省庁などが隣接している。
所謂国家公務員が点在している地域で、電車の中はそういうサラリーマンの人で溢れかえっている。
電車の中は、すし詰め状態で左右に列車が揺れるたびに肺がつぶれそうになる。
背の低い青子は、すぐに波に呑まれてしまう。

『もう少し、もう少しだから…!』

警視庁の最寄り、桜田門はもう少し。
あと少し我慢すれば、解放されるのだ!
お父さんに在ったら、タクシー代を貰おうと心に決め、息苦しい状態を我慢する。

『ああ、また人が乗ってきた!』

駅に着けば、またもや人が乗り込んでくる。
もう入りきらないと言うに、下りる人が少ないと言うに。

父に頼まれたお泊まり道具の鞄を落とさないように胸の中に抱え、耐える。



その時―――――


「ひゃっ!?」

何かが、私のお尻に触れた…
何かが…

「…!」

また、触れている…?触られている…?

「やっ…!!」
『痴漢だ――――――!!』

最悪の事態に、どう対処していいのかも分からずに、ただ悲鳴を上げることしかできない。

しかし、その悲鳴は電車の走行音に掻き消され似たような悲鳴は、揺れ動く列車に押しつぶされる周りの人々との声で混濁する。

『誰か誰か誰か誰か!!』

執拗に障ってくる手を、掴むこともできずに青子はただただ恐怖におびえる。





「桜田門――――桜田門――――」

「着いた!!! 下ります!通してください!」


大声をはって、人の間を縫って出た。
プシュー、と空気の抜ける音ともにベルが鳴って電車の扉が閉まった。
他の乗客が、ホームを去っていく中、青子は一人力を失くしてすわりこんでしまった。




背後は、振りかえれなかった―――――……
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