NOVAL

□貴方だけ
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日暮れの陽射しが、西向きの窓から入ってくる。
部屋主である父が不在の為、照明の付いて居ない事務所は、一面橙色だ。


他に誰も居ないこの部屋で、新一に電話をかけるのがお決まりだった。






不在中の父・小五郎に仕事依頼の電話が来てはいけないと、学校から帰ってから小一時間ほど事務所に留まっていた。
帰りがけに買ってきたティーンズ雑誌を片手に、応接用のソファに腰掛け読書していた時、ふいに携帯電話が鳴った。



慌てて学生鞄から携帯を取り出し、電話に出ると、それは久しぶりに声を聞く相手だった。


「もしもし、蘭? 俺、新一!」

「新一!」


一週間振りだろうか、声を聞くのは。
メールは昨日もしていたけれど、やはり声を聞いてしまうと、顔も、声も綻んでしまう。



別に彼女でもなんでもないけれど、こうやって新一は蘭を心配して電話を掛けて来てくれる。
どうしてかは分からないが、自分が落ち込んだり、新一に関することで憂い気になっていたり、悲しみに暮れていたり、嬉しい事があったり、楽しい事があったりした時は
必ずと言っていいほど、新一から連絡がある。
蘭から事の始まりを話した事はないが、新一は蘭が感じている事を全て事細かに知っていて、
哀しんでいるのなら慰め励ましの言葉を、逆であれば同調するような、さらに嬉しい気持ちにしてくれる言葉を的確にくれる。

新一は、まるで直ぐ傍で、蘭を四六時中見ているような発言をする。
傍に潜んでいるのではと、一度疑った事はあったが、現在では疑いは晴れているから、心配は何一つしていない。


今日だって、自分が主将を務める空手部の大会出場が決まったから、何処からか知った新一が、祝福を言いに電話を掛けてくれたのだ。



『まー、大会頑張ってくれよ、主将さん♪』

「ふふ、わかってるわよ、探偵さん。」

『蘭、相手を再起不能にしないように気をつけろよ。』

「それ、どういう意味?再起不能になんてしないわよ!  …あ、ねえ、新一?」

『ん?』

「もし、大会で優勝したらまたトロピカルランド連れてってよ。何時になっても構わないから。」

『トロピカルランド? …いや、それは…』

「事件?」

『ああ、ちょっと…』

「その今やっている事件が、終わってからで構わないの、いつになってもいいの、だから。」

『悪いけど…』

「どうしてよ、約束くらい…」

『遊園地なんか、園子に連れてってもらえよ』

「園子は園子で約束してあるの!ねえ新一、行こうよ、ね?チケットは私が買っておいてあげるから、行こうよ。」

『ああもう蘭、悪いけど行けそうにないんだ余計な約束は…』



「余計な約束?」



『え、いや、あの…』

「そう…私の頼みは余計な事なのね…」

『ち、ちげーよ、そうじゃなくて…』

「じゃあ前に都大会で優勝した時も余計な約束だったんだね。ごめんね、気づかなくて。」

『そ、そんなんじゃなくて…』

「じゃあ何なのよ!! もういい!他の人と行くから!」

『おい、蘭!』

「充てはあるのよ、彼氏ってゆうね!!」

『かっ…!?』

「そう彼氏!言い忘れたけど私、彼氏出来たの!だから彼氏と行くわ、新一なんかより全然かっこいいんだから!じゃあね!」

『おいラ…


ガチャッ





ツーツーツーツーツーツーツー…
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