■短編

□お菓子か悪戯か
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肌寒い日々になってきたこの頃、制服が夏服から冬服に変わり、季節の変化を感じさせる。


「静雄、今日は何の日か知ってる?」


静雄は席につき、授業中に寝てしまい写せなかった黒板の文字を新羅からノートを借りて写している途中だった。
新羅の言葉に静雄は一旦書くのを止め、こちらを見てから疑問を口にした。


「今日って何日だ?」

「え、」


そこから!?と驚きつつも口には出さず「10月31日だよ」と答える。


「あー…、ん?確か、えっと…」


あと少しで思い出しそうだが、その少しがどうしても思い出せないようだ。
そんな静雄に新羅は可愛い子供を見るかのような眼差しを向けながらヒントをあげた。


「ヒントはね、トリック・オア・トリート」

「あ、ハロウィンか!」

「正ー解」


嬉しそうに笑う静雄に新羅は、「ハロウィンだからこれあげる」とかぼちゃ味と書かれたポッキーを渡す。


「良いのか?」

「うん。食べたがってたでしょ、この前」

「ありがとな!」


嬉しそうにふにゃりと笑う静雄に新羅は買って良かったなぁと、得した気持ちになる。


「あ、次選択科目だ。僕と静雄は違う科目だからまた後でね」


それじゃ、と新羅は急いで教室から出ていってしまった。残された静雄は、ポッキーを手に持ったまま選択科目の教室へ行こうとするのだが───


「トリック・オア・トリート」


静雄以外誰も居なかったはずの教室に、顔も見たくないほど嫌いな青年の声が響いた。


「…何のようだ」


臨也は廊下側の一番前の席の机の上に座って足をぶらぶら揺らしていた。


「えー?だからさ、トリック・オア・トリートって言ってるじゃん」

「だから何だよ」


さらに眉間にしわを寄せて不機嫌そうに聞く静雄に臨也はわざと煽るような言葉を言う。


「あれ、もしかして意味知らないの?」

「知ってるにきまってんだろ!」

「じゃあお菓子ちょうだい」


にこりと笑いながら静雄に向けて手を出す臨也。


「手前にやる菓子なんかねぇよ」


睨みながら「さっさと失せろ」と言う静雄に臨也は「えー」とふざけた声をあげ、机から立つと「良いの?」と楽しそうに聞く。


「何がだよ……?」

「気にしないで良いよ。んー…じゃあさ、そのポッキー、一本頂戴」


ポッキーを指差され、静雄は意味がわからないとでも言うような顔をしていたが臨也にもう一度頂戴と言われてからやっと反論の言葉を口にした。


「嫌に決まってんだろ。何で手前なんかにやらなきゃいけねぇんだよ?死ね」

「まぁまぁ。一本くらい良いでしょ?」

「嫌だ」

「これあげるって言っても?」


そう言って見せてきたものは綺麗な紙袋。中には美味しそうなプリンが入っていた。静雄にはそのプリンに見覚えがあった。


「そ、それ……」

「うん。シズちゃんなら一度は食べたいと思う1日限定10個のプリンだよ?」


前から一度は食べたいと思っていたが、毎回直ぐに売り切れてしまうためまだ食べた事が無いのだ。こんなチャンスはなかなか無い。目の前にあるプリンを見つめ静雄に臨也はにやりと笑う。


「食べたいならあげるよ?」

「…っ、良いのか?」

「勿論!ただし、さっきも言ったようにポッキーを一本頂戴あと、その一本でポッキーゲームをしよう」

「ポッキーゲーム…?」


知らない静雄はきょとんとした顔で「…ポッキーゲーム」ともう一度呟く。


「ポッキーゲームはね、ポッキーを端から食べていくゲームだよ」

「…ふぅん」


どうでもよさそうに返事をした後静雄は、「あとは?」と言う。
臨也は一瞬反応が鈍り、「……え、」と珍しく変な声を出す。


「それやるだけで良いのか?」

「………」



もはや返事をする事さえ忘れてしまうほど、静雄は臨也にとって衝撃的な事を口にしたのだ。


「他にもまだあんのか…?」


首を傾げながら聞いてくる静雄に臨也は黙ったままバッと後ろを向き、鼻を抑える。
(鼻血出るところだった……え?なんなのシズちゃん。プリンなんかでポッキーゲームをやってくれるなんて…!それに何?首傾げながら見つめてこないでよ!可愛すぎ!!)


「臨也…?」

「あ、あぁごめんね。今のは気にしないで。ポッキーゲームをやってくれるならプリンはあげる」

「マジか!」

「うん」


キラキラとした瞳で臨也を見つめると、「じゃあポッキーゲームやるぞ」と自分から話を進めてくれた。


「じゃあ、こっち側を口にいれて」

「…ん」


床にぺたりと座り、ポッキーを口にいれる静雄は可愛く、それだけで満足できると臨也は思うがせっかくのポッキーゲームなのだから最後までやらなきゃ損だろうと自分に言い聞かせる。

「じゃあ、俺は反対側から食べるからシズちゃんはそっち側から食べてね」


静雄はそれに小さく首を縦に振ると、サクサクと小さな音をたてながらポッキーを食べ始めた。それに合わせ、臨也も小さな音をたてながらポッキーを食べ始める。暫くサクサクという小さな音だけが響いていたが、静雄が不思議そうに臨也に問い掛ける。


「…ほれ、いふになったら止めれは良いんは?」


ポッキーを落とさないように気を付けながら言う静雄に可愛いと思いながら、楽しそうに笑う。


「食へおはるまへはよ」

「…っ、」


瞬間、静雄の顔は赤く染まり困ったような顔で臨也を見つめる。
そんな静雄に臨也はまるで気付いてないような表情をし、また食べ始める。
静雄は静雄で、一度やると決めたのだからやらなければいけないと思い、目をギュッと瞑りまた食べ始めた。静雄は少し考えたところでハッとする。

(もしかして…いや、こいつ…き、キスしちまうかも知れない事に気付いてないんじゃねぇか…?)

普段の思考なら、臨也がそんな間抜けなミスをするわけが無いと直ぐに気が付くのだが、今の静雄にはそんな考えでしか今の状況を逃れられないため、そう考える事にした。

(…そうだ!一口くらいのところで上手く離れれば良いんだ)


これなら上手く今の状況を回避出来るし、もしも何で食べるの止めたの?って聞かれたらキスしないためだとか何とか言えば丸くおさまると考えた静雄は、瞑っていた目を少しだけ開き、タイミングをはかる。
だんだんと近づいてきたところで静雄は(今だ!)と心の中で叫び口を離すのだが───



「…ん!?」

臨也の手が静雄の頭にまわり、グイッと臨也の顔の方まで引っ張られ唇が重なった。静雄は目を見開き必死に今の状況を理解しようと頭をフル回転させたが、その間に臨也は舌を入れて深いキスを始めてしまう。そのせいで回りはじめた静雄の頭はすっかり停止してしまい抵抗も忘れ、臨也にされるがままになってしまった。


「ふ…ん、……んん」


口内を動き回る舌は静雄の逃げる舌に無理やり絡める。そのせいでくちゅりと艶めかしい音が鳴り、静雄はギュッと強く目を瞑る。

「ん…、は、ぁ……」


解放されたのは、どちらの唾液かわからなくなり静雄の口からポタリポタリと落ち、やっとのおもいで唾液を飲み込んだ後だった。
先ほどポッキーを食べたから唾液は僅かに甘いチョコの味がした。


「て、めぇ…何、しやが…る」


はふはふと荒い息を繰り返しながらもキッと力強く臨也を睨み付ける静雄だが、顔が赤く涙目なために全くもって効果が無い。


「ふふ、お菓子ありがとね」


凄く美味しかったよ。とにっこりと笑いながら静雄の頭を優しく撫でながら言う。すると静雄は恥ずかしそうに下を向き自分の頭を手で隠す。


「手前、本当に死ね。悪戯にしちゃ手がこもりすぎだろ…」

「悪戯?…あぁ、違うよ。だってお菓子はちゃんと貰ったしね。ポッキーをさ」

まだ残っているポッキーを指差し、「シズちゃんのおかげで何時もよりも美味しかったよ」と楽しげに言うので静雄は、じゃあ悪戯じゃないなら何なんだよ…と思いはしたものの、口には出さずに首だけを傾げる。
何も伝えずとも臨也には静雄の考えが伝わったようで、苦笑しながら「本当に鈍いなぁ…」と珍しく困ったような声音で喋る。


「あのね、ポッキーゲームは大抵好きな子とやるか罰ゲームくらいなんだよ」

「……」


黙った静雄を見て、やっと気付いたかと安堵するのだったが────


「で、誰だ?」

「…は?」


「誰って誰?」と臨也は意味がわからず疑問を浮かべて静雄を見る。
静雄は静雄で何言ってんだこいつ…、という顔をして臨也を見ていた。


「だから手前が負けた相手だよ」

「負けた?……、シズちゃん、一つだけ言っておくよ。俺は誰にも負けていないからね」

「はぁぁ!?負けていないのに罰ゲームするなんてただのバカだろ。信じらんねぇ…」

「…君がね」


やはり静雄は先程臨也が言った『好きな子とするか罰ゲーム』の二つの選択肢の中で『罰ゲーム』だと勘違いをしたらしい。


「俺はね、罰ゲームじゃない方の意味でシズちゃんとポッキーゲームをしたんだよ」

「罰ゲームじゃない方………っ!う、嘘つくな!」


やっと理解できたのか、林檎のように顔や耳を真っ赤にして言う静雄に臨也は「嘘ならキスなんてしないよ」とハッキリと言う。


「それにしても鈍すぎるでしょ」

「…だ、って……ほ、本当だったら嬉しいけど違ったらって思うと怖、くて……」

「それって……」


小さくだが首を縦に振る静雄を見て臨也は驚く。
(まさか相思相愛だったなんて…)


「ねぇシズちゃん」

「…?」

「トリック・オア・トリート」


暫くキョトンとした顔で臨也を見つめていた静雄だったがハッとし、「菓子ならさっき上げただろ」と言うのだったが、臨也はそれに嬉しそうに頷く。


「うん。お菓子はいらないからさ、かわりに」



戯させてよ


(悪戯って何すんだよ?)
(勿論キスだよ)
(……それじゃ、悪戯じゃないだろ)
(!じゃあいっぱいしても良い?)
(、っ!…か、勝手にしろ)
(うん。じゃあ勝手にさせてもらうよ。大好きシズちゃん)
(お、俺も…)
(…!)












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