■短編2

□何もしてない。
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「何処に行くの?」

俺の家でシズちゃんと二人きりの中、シズちゃんは自分の携帯で時間を確認すると黙って玄関へと歩き始めた。

「…別に何処でも良いだろ。手前は仕事をちゃんとやってろ」

シズちゃんは今日は仕事が休みだから何時ものバーテン服は着ておらず、ラフな服装。靴を履きながらそう言ったシズちゃんの声音には別段起こった様子もなかったために、怒っているわけではないと直ぐに理解できる。
先程までは俺がずっと仕事をしていてシズちゃんが弟君の載っている雑誌を読んでいる状況だったから、てっきり俺がシズちゃんをほったらかしにしていたから怒ってしまったのかなと思ったのだけれど違うようだ。

「教えてくれないのー?」

「何時もはうっせぇから教えてるけど、今日は絶対に教えないからな」

「怪しいんだけど…。てかうるさいのは当たり前でしょ、心配なんだから。だから、」

「今日は駄目だ!絶対に調べたりすんなよ!約束だからな!!」

「え、あ!シズちゃ、ん……」

俺の言葉を遮り、焦った様子で言うと逃げるように外へと出ていってしまった。

「もう…、俺がシズちゃんとの約束だけは絶対守るのわかってて言ってるでしょ……」

俺は約束はあまり守らないけど、シズちゃんとの約束は全て守ってきた。シズちゃんもそれをちゃんとわかっているから、俺を信用している。


「もう…」

俺はため息を吐くと、先程まで仕事をしていた部屋へと歩き出す。
パソコンばかりを見ていたせいで疲れた目を軽く押し、仕事の時にだけかけていた眼鏡をまたかける。

「…早く帰ってきてよ。本当に心配なんだから」

俺以外誰もいない部屋で一人呟くと、気をまぎらわすように仕事を始めた。









*****









「…遅い」

仕事は集中したからか何時もより早めに終えられた。
けど、シズちゃんが帰ってこない。何時もは俺の仕事の終わる時間をわかっているから既に帰ってきているのに、その時間から二時間も過ぎている。
何をしているかわかればこんなに心配はしないけど、知らないから苛立ちと不安が時間がたつにつれて大きくなっていく。
調べるのは簡単だ。けど約束があるからただ家で我慢して待つ事しかできない。
深いため息を吐いたとき、家のドアが開く音がきこえた。鍵はかけたから開けれるとしたらシズちゃんだけ。俺は駆け足で部屋を出ると玄関で靴を脱ぐシズちゃんの姿が目にはいった。

「ただいまって、お前なに慌ててんだ?」

「とりあえずおかえり。ねぇ、今日は随分と帰りが遅くない?何処に行くかも何するかも教えてくれないし」

少し強めの口調で言えばシズちゃんは叱られた子供のように下を向く。暫く無言の時間が続いたけど、珍しくシズちゃんが最初に口をひらいた。

「いざや…ごめん」

普段謝らないシズちゃんが珍しく謝る姿に、帰ってきたら言おうと思っていた言葉が出てこなくなる。

「あのな、臨也…これ、美味しいかわかんねぇけど……」

そう言っておずおずと俺に差し出してきた物は

「…トリュフ?」

綺麗な青い箱に入っていて、中を開けたらトリュフが入っていた。最初に思ったのは何故俺にトリュフを買ってきたのかということ。チョコレートや甘いものが昔から好まない俺だけど、シズちゃんに貰えるのなら何だって嬉しいし、美味しく食べれる。けれど何故?シズちゃんも少なからず俺が甘いものが好きではない事くらい知っているはずなのに……。

「どうしたのいきなり?」

まずは素直に疑問を口にする。
するとシズちゃんは「お前にしては珍しいな」と苦笑いとかじゃなく、楽しそうに笑うものだから何なのか余計気になってしまう。

「えー教えてよ」

「お前仕事のし過ぎなんじゃねぇの?じゃあ、今日は何月何日だ?」

「えっと…2月の……あ、あ!バレンタインデー!」

「正解。…去年手前が、来年は俺の手作りのが食べたいって言ってたから…その……う、美味いかはわかんねぇけど、作って、みた…」

ねぇ、何このシズちゃん可愛すぎるんだけど。顔なんて真っ赤だし、恥ずかしいからなのか目なんかうるうるしちゃってるし、おまけに緊張しちゃってるのか手が震えてる。
…どうしよう…シズちゃんが可愛すぎて、先にシズちゃんを食べたくなってきちゃった。まぁ何時も食べたいんだけど。

「…いざや?その……トリュフ嫌いだったか?」

「え?あ、ううん好きだよ。それにシズちゃんがくれたり作ってくれる物なら何だって嬉しいよ」

あまりにシズちゃんが可愛すぎたせいで俺としたことが反応できないでカッコ悪い顔しちゃったな。いや、でも仕方がないよ。あんなに可愛い事されたらだれだってああなる。俺の恋人は可愛すぎるから本当に心臓に悪いよ。お
まけに無意識であんな可愛い事してくれるんだからたちが悪い。

「食べて良い?」

こくり。と黙ったまま小さくうなずくシズちゃんを合図に一口サイズのトリュフを口の中へといれる。
甘いけれど少し苦めのチョコレートは口の中に入れたとたんに溶けてゆき、あっという間になくなった。

「俺、この甘さは好きだよ」

緊張した表情で俺の次の言葉を待っていたシズちゃんに素直な感想を言うと、嬉しそうにふにゃりと笑う。

「そ、か。俺には苦すぎたけど、やっぱりお前はこのくらいが好きだったよな」

好きな人に自分の好みの味とかを覚えてもらえてるのって結構嬉しいものなんだよね。自然と緩む顔を我慢する。

「バレンタインだからチョコレート系にしたけど、次の時までに食べたいの言っといてくれれば…難しいのとかでも…その…作れるように、れ、練習しとくから……っ!臨也!?」

「…何でこんなに可愛いの……ごめん」

「へ?いざっ、…んっ、…ぁ、んン!」

トリュフを一つとると、自分の口の中へと入れそのままシズちゃんに口付けをする。舌を絡めて少し溶けたトリュフをシズちゃんの口へと移すと、そのまま味わうように舌をさらに深く絡める。

「ふぁ…ん、…ぁん、」

トリュフが完全に溶けたあともキスを続け、シズちゃんが飲みきれなかったどちらのかわからない唾液が顎から首へと流れていく。それだけで興奮していく自分がいることがわかる。
そのままキスを激しくして続けていたら、背中を弱々しく叩かれたから仕方がなくシズちゃんとのキスをやめる。

「…ば、かやろ……!いきなり、何すんだ、よ!」

途切れ途切れだけど、一生懸命にしゃべるシズちゃんって、なかなかくるものがあるよね。

「あまりにもシズちゃんが可愛いから我慢できなくなっちゃった。」

「バカ死ね!!」

「そんな照れなくても良いじゃん可愛いなぁ。え?じゃあ次のバレンタインデーまでに食べたいの言えば何でも良いの?」

「前半の言葉はスルーしてやるよ。…まぁ、一応な。ぜってぇ俺じゃ出来ないものじゃなければ…」

「大丈夫!わぁ楽しみだなぁ!」

「え、おい。何か決まってんなら言えよ」

「えー?じゃあ絶対にやだって言わない?」

「俺がやだって言うもんを手前は言うつもりなんだな」

「さぁー」

「……わかった。やだって言わねぇから、言えよ」

ふふ、その言葉を待っていたよ俺は。
シズちゃんは約束だけは絶対に守るからね。

「シズちゃんが作ってくれた同じトリュフで、えっちしたいなぁ!」

「えっち……は!?」

「えっちだよ?シズちゃんのトリュフを使ってね!約束だから、ちゃぁんと守るよね?」

「…………」

「シズちゃん?」

「………っ、わかった!けど、条件をつける」

「なぁに?」

シズちゃんの出す条件なんて俺にとってはどうってことないから、いくつ出されようが問題ない。

「まず、ホワイトデーは手前が手作りで何か作れ」

「良いよー」

「あ、あと……」

「あと?」

「手前…が、……さっき、き、キスしたせいで…口の中が、苦いから…もっかいキスしろ…」

「っ!!そんなことなら沢山してあげる!」

俺は可愛い可愛い恋人に、口に残る苦さなんか忘れてしまうくらい甘い口づけをした。













______________

まさかのバレンタインデー話です(笑)
ホワイトデーも過ぎてしまい、今さらかよ!って、思いますが流してやってください( ´,_ゝ`)





(2010/3/22)






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