■長編
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新羅とは途中まで一緒に帰り、いつも通り分かれ道で別れた。
家まではまだしばらく時間がかかるため、近くのコンビニで牛乳でも買おうかと歩きながら悩んでいると、目の前に今最も会いたくない男が電柱の柱に寄りかかり、こちらを見ていた。
「……っ、」
静雄はビクッと過激な反応をしたが、直ぐに視線を下に向け黙って横を通りすぎようとする。
本当は横を通りすぎる事もしたくはないが、臨也が居る道を通らなくては家に帰れないのだ。
だが、そんな静雄をやすやすと帰らせてあげるほど臨也も優しいわけではなく、静雄の手を掴み無理やり歩くのを止めさせる。
「シズちゃんが俺を無視するなんて珍しいね」
「…っ、……今はそんな気分じゃねぇ。さっさと離せ」
臨也の顔を見ようとはせずに、下をジッと見ている。
「シズちゃんはさ、何で俺があんな事したかわからない?」
『あんな事』という部分にだけピクリと小さな反応があったが、それでも静雄は下をむいたまま。
「……手前の新しい悪戯だろ…」
「違う」
「じゃあ何なんだ?手前の考えはいっつもわかりにくいんだよ」
「あれは普通理解できるからね…。シズちゃんが鈍いだけ」
やや呆れ気味に言う臨也に静雄はムッとした顔をし、言い返す言葉を考えるがなかなか見つからず、黙ってしまう。
「…もういい、帰るからさっさと離せ」
「気にならないの?」
「良いから離せ!」
「まったく…新羅を信じるくらいなら俺を信じてよ」
溜め息を吐きながら言う臨也に静雄は「は…?」と間抜けな声を出す。
「何で今新羅を出すんだよ?」
「……シズちゃんいい加減わかりなよ」
「うっせぇな」
「だから…、シズちゃんが新羅を信じてる事に嫉妬したからあんな事したんだよ」
「……………はぁ!?そんな事で何で俺が手前にんな事されなきゃいけねぇんだよ?」
有り得ないものでも見るかのような目で臨也を見ながら言う静雄に、臨也は「駄目だこの子…」と大きく溜め息を吐く。
「喧嘩売ってんのか?」
「だから…!好きって事だよ」
臨也の言葉に静雄は目を丸くし、暫くお互いを無言で見つめ合う。
「誰が誰を好き…?」
「俺がシズちゃんを好き」
「…う、そだろ……」
「嘘だったらあんな事しないよ」
握られている手を引っ張られると耳元で呟かれる。
「俺はシズちゃんが好き。信じられないなら、さっきやった事やそれ以上の事とかをしちゃうから」
「!」
ボッと顔を赤くし目を瞑る静雄はとても可愛らしく、臨也は口端を上げる。
「返事はいつでも良いから言ってね。あんまり遅いと聞きに行くから」
最後には耳を甘噛みすると、静雄は「ひっ」と小さな声を上げ、ハッとしたような顔つきになると臨也の手を払い除けて走っていった。
「可っ愛いかったなぁ」
満足そうな顔をした臨也は静雄が走っていった方を見つめ、きっと静雄は当分自分の事を考え悩み続けるだろうと推測し嬉しそうに笑う。だが、何か思い出したような表情をした臨也は不機嫌そうに「忘れてた…」と呟き、舌打ちをする。
「新羅の飲みかけの牛乳飲んだお仕置きをし忘れちゃったなぁ…まぁ、今度すればいっか」
楽しそうな臨也の声は、誰にも聞かれることなく静かに消えた。