*Title 2*

□46.嘘を吐くひと
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幼馴染みの翔はいつもしょうもない嘘をついていた。
嘘、というと少し大袈裟だが、子どもらしい自慢を交えて、何かと話を膨らますのだ。


「なっちゃん、俺んち、熊みたいにでっかい犬、飼い始めたんだぜっ!!」


ドキドキしながら翔の家にお邪魔したらそこにいたのは可愛い柴の子犬で。


「なっちゃん、俺の誕生日のケーキは10段もあるんだぜっ!」


家族ぐるみで参加している誕生日パーティーでは毎年翔のおばさんが作ってくれるみんなが大好きなチーズケーキで。
…もちろん普通のチーズケーキだから10段なんて重ねられない。
信じてはいないし、翔の発言を突き詰めるようなこともしないが、こんなに美味しいケーキが10段あったらどんなに嬉しいか、といつもこっそり考えていた。


オーバーすぎる表現だけど、全くの嘘はつかないお調子者、それが翔だった。
なんで俺が急にそんな幼馴染みの事を思い起こしたかというと、久しぶりに彼と会う約束をしているからである。
中学に上がる前に父方の実家がある広島へ引っ越すことになり、それ以来多少のメールのやり取りはあったが会うのは実に6年ぶりだ。
新幹線のアナウンスが間もなく東京に着くと告げ、少し緊張しつつ翔から来たメールを読み返す。


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なっちゃん久しぶり
母さんからこっちの大学受かったって聞いたよ
住むとこ探しに行くの手伝うから予定が決まったら連絡して!
ちなみに俺はだいぶイケメンに成長したから驚くなよ(笑)


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俺の記憶の中の翔は小学6年生だから大分変わっているはずだ。
それにしても、自分でイケメン、なんて言っちゃうところは相変わらずのお調子者だな、なんて懐かしくなる。
もしかしたら俺も気づかれないかもしれない、と翔に予定通り東京駅に着けそうな旨と今日の服装を伝える。
…さて、第一関門の新幹線の旅はそろそろ終わりだが、次の関門は広い東京駅で翔と無事合流できるか、である。





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