「リフレイン」
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太公望が朝歌から脱出して数週間が経つ。
加羅は飛虎から「太公望は無事に朝歌を発った」と報告を受けて以来、毎日後宮へと足を運んでいた。
目的は1つ、継母の姜妃に会うためだ。
しかし、毎日毎日通えど加羅が姜妃に会うことは許されなかった。
今日も同じように後宮を訪れた。
そして、あと少しで姜妃の住居にたどり着く、という所で妲己の手下に妨害される。
加羅はため息を吐かざるを得ない。
こうまで徹底して自分と姜妃を会わせたくない理由でもあるのだろうか。
生憎、加羅は妲己ではないので、彼女の思惑など一切理解できないのだが。
未だ立ち去らない加羅への視線を強めた妲己の手下に気付かないふりをして、また1つ溜め息を吐く。
そんな加羅の背後から騒がしい声が聞こえてきた。
「離せ!なぜ母上の元へ行っちゃいけないんだ!」
「妲己様の御命令です!お聞き分けください!」
「なんで!?離してよ!」
加羅は背後を振り返る。
そこには幼い2人の少年が兵士数人に腕を掴まれている様子があった。
加羅は未だ騒がしく争う彼らに近付いた。
「離せと言っているだろう、無礼者!僕たちを誰だと思っている!」
2人の少年(おそらく兄弟だろう)の兄と思われる方が声を荒げて兵士に怒鳴る。
しかし、未だ10歳ほどの少年の言葉にひるむ兵士ではない。
騒ぐ2人の少年を抑えるのが面倒だと感じたのか、兵士の1人が腕を振り上げるのを見たとき、加羅が声をあげた。
「お止めなさい!」
「っ、……公主様…、」
少年たちを気絶させようとしたのだろう、腕を振り上げた兵士は、加羅を見るなり焦ったように腕を下げた。
その様子に他の兵士たちは水を打ったように静かになった。
2人の少年は困惑した表情で加羅を見上げている。
「太子に乱暴は許しません。今すぐその手を放しなさい。」
「しかし、これは…」
「2度は言いませんよ。」
「…はっ」
加羅の言葉に兵士たちは次々に2人の少年―太子たちから手を放し、数歩下がった。
それを見た加羅は太子2人に近寄った。
「怪我はありませんか?」
「うん。」
「あの、あなたは…?」
未だ困惑を隠せない2人に加羅はふわりと微笑む。
「…ここは少々場所が悪いですね。こちらへ。」
加羅は2人を後宮から連れ出すように、外へと足を向けた。
それに2人は不満気にしながらも少し離れながら付いて行った。
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