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□お願いだから
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嗚呼、埋もれてしまいそう。


一面の銀世界は、私という存在を浮き彫りにしていたのに。
白い、白い雪が、私の視界を覆ってしまう。
頭に、肩に、掌に、雪が積もっていく。
視界だけでなく、私の存在さえも覆ってしまいそうだ。

かじかむ指が気にならなくなったのはいつだろう。
自分が白以外見なくなったのは、いつだろう。
長く、永くここにいた様な気がするのに、きっといるのはほんの数時間。

気が遠くなるような時を過ごしてきた気がする。
実際、普通の人間よりは長生きしているはずだけど。
何年、何十年、何百年過ごしても、この心が晴れることはきっとない。
未練がましい女だ、なんて、自分が一番分かってる。


だって、どこにも見つからないんだよ。
この銀世界から、ダイヤモンドを見つけるよりも、困難かも。

早く、速く、はやく、見つけなきゃ、
この瞳から、涙がこぼれる前に、

このまぶたの裏から、貴方が消え去ってしまう前に、



「…ねぇ、どこにいるの……?」



何故なんだろう。
いつも、私ばっかり、貴方の影を追ってる。
貴方はそんな私を分かってるはずなのに、いつも、ずっと遠くを歩いていくの。


待って、
待ってよ、
行かないで、
お願いだから、


早く、速く、はやく、
じゃないと、貴方が消えてしまう。
雪に埋もれる私のように、記憶の波に、貴方が埋もれてしまう。
そんなこと、したくないのに。

したくないよ、



「…何で?…何で、会いに来てくれないの……?」



貴方の好きなもの、
貴方の仕草、
貴方の瞳、
貴方の、

貴方の笑顔さえ、もう、





お願いだから
(私に、会いに来てよ。)
(じゃないと、消えてしまいそう。)




「……太公望…、」



名前だけは、はっきりしてるよ。
口が、喉が、声が、覚えているから。






11.06.27***

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