メインストーリー
□優しいkissを… B.D特別企画
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―前編―
例年より、1週間も早く梅雨があけた7月―。
早くも、夏本番を思わせる暑い日射しの中、私は官邸を訪れていた。
「こんにちは!紗絢さん!今日も暑いですね」
いつものように、玄関で真壁さんが出迎えてくれた。
「こんにちは。暑いのに、ご苦労様です」
「今日は、総理に御用ですか?それなら、先程、出掛けてしまわれたんですが」
「いえ、今日はSPの方達に用が。そらさんは?」
「残念ですが、総理の警護で…」
「よかった」
「よかった?」
「いえ、何でもないです。冷たい物持ってきたので、よかったら真壁さんも休憩時間に来てくださいね」
「ほんとですか?うわ〜嬉しいなぁ。必ず伺います!」
夏の太陽にも負けないような真壁さんの笑顔に見送られ、私はSPルームに向かった。
『コンコン』
ドアをノックすると、中から昴さんが出てきた。
「こんにちは」
「紗絢か。どうした?そらならいないぞ」
「知ってます。今日は、ちょっと昴さん達に相談があって…」
「相談?そうか、ようやく俺に乗り替える気になったか」
「は?」
昴さんがドアに片手をついたまま、顔を近付けてくる。
「やだなぁ、昴さん。紗絢さんは“達に”って言ったじゃないですか」
昴さんの後ろから、瑞貴さんが笑いながら声をかける。
「冗談に決まってるだろ」
「昴さんだと、冗談に聞こえませんよね。それより、早くドア、閉めて下さい。クーラーの冷気が逃げてしまいます。紗絢さん、中へどうぞ」
「ありがとうございます。お邪魔します」
私は瑞貴さんに促されて、部屋の中に入った。
「これ、冷たい飲み物とアイスクリームです。好きなの取って下さい」
「気が利くな」
「いただきます」
残ったジュースとアイスクリームを冷蔵庫にしまうと、昴さんと瑞貴さんの前に座る。
「それで、相談って何だ?」
「実は…、今度の水曜日、そらさんの誕生日なんです」
「へ〜、そらさんの誕生日」
「はい。でもまだプレゼントが決まらなくて…。そらさんが喜ぶ物考えてたら、どんどん迷って分からなくなっちゃったんです。で、みなさんに、アドバイスもらえたらなーって。そらさんが欲しがってる物とか、SPの仕事してて、あったらいいなって思う物とか…ないですか?」
2人は顔を見合わせると、昴さんはため息をついて、瑞貴さんはクスッと笑った。
「お前、それ本気で言ってるのか?そらが喜ぶもんなんて、決まってるだろうが」
「ですよね」
「え?え?本気で悩んでるから、相談に来たんですけど…」
あまりにも、分かりきった事を訊かれた、みたいな反応に戸惑いと焦りを感じる。
昴さんは、空になったペットボトルをテーブルの上にトンと置くと、呆れた顔で私を見た。
「あのな、そらは、お前がくれたもんなら、何だって喜ぶだろ?」
「僕もそう思います。紗絢さんから貰えるなら、ティッシュ1枚でも大事にしそうですよね」
瑞貴さんまで、本気か冗談か分からない笑顔で同意する。
「ティッシュ…って、それはないと思いますけど…。確かに、そらさん、何をあげても、凄く喜んでくれるし、大事にしてくれますよ。でも、だからこそ何をあげたらいいか、分からなくて…」
「ノロケてるのか?」
「そ…そうじゃなくて!」
(もう、これじゃ相談にならないよ。そらさんに直接欲しいもの訊いても“紗絢ちゃんがくれるなら、何でもいいよー”って、言いそうだし、その“何でも”っていうのが1番困るから、アドバイス貰いにきたのに)
「それに…」
もうひとつ、悩んでる事を話そうとした時、部屋のドアが開いて桂木さんと海司が入ってきた。
「お疲れーっす…って、紗絢?」
「こんにちは。久しぶりですね」
「桂木さん、海司、お疲れ様です。お邪魔してます」
私は、冷蔵庫からジュースとアイスクリームを出して、2人に差し出す。
「ありがとうございます。今日も暑いですから、本当にありがたい」
「サンキュ。で?何の話してたんだ?」
「あのね、実は……」
海司と桂木さんに、プレゼントの事を話すと、海司はさっきの昴さんと同じようなリアクションをする。