メインストーリー
□優しいkissを…vol.9
1ページ/4ページ
『♪〜』
コタツの上に置いていた、携帯のメール着信の音で目が覚めた。
(いつの間にか寝ちゃってたんだ…)
演劇部の公演で使う衣装を縫っていて、そのままコタツでうたた寝をしていた私は、2、3回瞬きをしながら、携帯を開く。
待受画面の時刻は、11時を回ったところだった。
“受信メール1件”の文字をクリックすると、そらさんからのメール。
『こんな時間にゴメンm(_ _)m
まだ起きてる?』
どうしたんだろ。
いつもの“おやすみメール”とは、少し様子がちがう。
『今、仕事終わったんですか?まだ、起きてますよ』
(まだ、って言うか、今起きたんだけど…)
そう思いつつ、送信ボタンを押して、携帯をコタツの上に戻すと、すぐに着信音がなった。
「ごめん起こしちゃった?」
何かあったのかと、心配したけど、そらさんの声は私を気遣いながらも明るくて、ほっとする。
「いいえ。演劇部の衣装を作ってたから…。どうしたんですか?」
「ちょっと、声聞きたくなっちゃってさ〜」
その一言に、心がキュンとする。
私は、そんな気持ちに気付かれないように、わざとイジワルを言ってみる。
「何か、桂木さんに怒られるような事でも、あったんですか?」
「な…。なんで?」
(あれ?図星だった?)
「そんな事でもないと、電話しちゃダメ?」
(あ、怒っちゃったかな…)
「冗談ですよ。私も、そらさんの声聞けてうれしいです」
「それは、本当かなー?最近紗絢ちゃん、オレからかうの、上手くなったよね〜」
「そんな事…」
(そらさんに比べたら、私の冗談なんて…)
「本当ですよ。そらさん、忙しそうだったから、声聞けただけでもうれしいです」
「そうだね、最近、帰り遅かったしなー…。
なんか、話してたら逢いたくなっちゃった。…今から、そっち行ってもい〜い?」
「え?」
コタツの周りに広がった、縫いかけの衣装に視線を落とす。
(どうしよう…。この衣装の仮縫い、今夜中に終わらせるつもりだったんだけど…)
「ゴメン、やっぱり、迷惑だよね」
私が黙ったままなので、がっかりした声を出すそらさん。
「あっ、大丈夫です!でも、そらさんこそ、疲れてるんじゃないですか?」
「全然平気。実は、マンションの下にいるんだよね」
「え?うちの?」
「そ。帰りに紗絢ちゃんちの前通ったら、部屋に明かりついてたから、もしかして起きてるかなって。声だけでも聞けたらいいやって思ってたんだけど…じゃ、今から行くよ?」
「はい、待ってます」
そらさんに逢える…そんな誘惑に勝てるわけないし。
自分でも呆れながら、衣装や材料を段ボール箱に詰め込むと、部屋の隅に押しやった。