メインストーリー
□優しいkissを… vol.14
1ページ/6ページ
一歩店内に足を踏み入れると、そこは赤やピンクのハートが溢れていた。
「うわ、もうすっかりバレンタインだね」
私とみどりは、演劇部で使う衣装の材料を買いに、ショッピングセンターに来ている。
正面入り口近くのバレンタイン特設コーナーには、色とりどりにラッピングされたチョコレートや、手作りの為のグッズが所狭しと並んでいて、年齢問わずたくさんの女性客が品定めをしていた。
「はぁ…また独り身には厳しいイベントが…」
「みどりは誰かにチョコあげたりしないの?」
「あげない事はないんだけど。義理チョコとか、友チョコ…。でも…今年は頑張っちゃおっかな」
「えっ?本命いるの?誰?」
「それは内緒。ちゃんと成功したら教えるね」
「本当?絶対だよ!」
ちょっとだけ照れてるみどりの顔が可愛くて、なんだか嬉しかった。
「私の事より紗絢は?そらさんのチョコ用意したの?それとも、今年も一緒に作るとか?」
「えっとね今年は作るっていうか、一緒に“チョコファウンテン”するの」
「あぁ、あのスイーツバイキングとかにある?」
「うん。卓上用のを見つけてね、そらさんに話したらすごく乗り気で」
「いいなぁ、相変わらずラブラブで」
「ちゃんとみどりや小杉先輩用にチョコも作るつもりだから。お父さんや他のSPのみんなにもお世話になってるからあげたいし」
「ありがと。でも大丈夫?そらさんにプレゼントも何か手作りするって言ってなかった?」
「それなんだけど…」
私達はバレンタインコーナーを横目に、手芸用品店へ向かった。
「えっ?!まだ用意してなかったの?」
「作る物は決めてるんだけど、ここんとこ何だか忙しくて材料買いに来る暇なかったんだよね」
「何作るの?」
「ネックウォーマー。そらさん、マフラーは持ってるけど、ネックウォーマーは持ってないみたいだし。それに、正直今からじゃそれくらいの物しか出来そうにないしね」
「そうだね。紗絢の気持ちがこもってれば、きっとそらさんも喜ぶよ。じゃ、演劇部の材料は私に任せて、早く毛糸選んでおいでよ」
「えっ?いいよ。そっち終わってからで」
「いいから、いいから」
そう言いながら、みどりは私の背中を押して毛糸売り場に連れて行くと、さっさと布地の置いてあるコーナーへ去って行った。
私はみどりの心遣いに感謝しながら、毛糸選びを始めた。
(あ、この色、そらさんに似合いそう)
オレンジに朱色やベージュが交じった、暖かくて優しい色。
その毛糸玉を手に取ってみる。
(わ。ふわふわして気持ちいい。糸がストレートじゃなくて、ポコポコしてるから、模様編みとかしなくてもいい感じに仕上がりそう)
私は出来上がりをイメージして、その毛糸を買う事に決めた。