書き下ろし
□ある朝の光景
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ふと…、頭を持ち上げられて目が覚めた。
覚めた、と言っても、意識があるだけで、重い瞼は閉じたまま。
まだ、脳が体を動かす命令を出せないでいると、頭の下にあった腕が引き抜かれ、持ち上げられた頭がそっと枕の上に降ろされた。
そらさんの腕枕で、眠っていた私は、突然その寄りどころを失い、気配だけでそらさんの動きを察知する。
上半身を起こし、痺れていただろう、その右腕を擦りながら、私の寝顔を見下ろしているそらさん。
体を少しひねって、私の顔にかかった髪を、すらりとした長い指で払うと、そっと手のひらで頬に触れる。
私は、まだ目覚めきっていない動かない体で、その感触にドキドキしていた。
そらさんは、1、2度私の頭を撫でた後、ベッドから足を下ろし、私を起こさないように気遣いながら、静かに立ちあがった。
昨夜、眠りについたのは、何時ごろだっただろう。
そらさんが、仕事が終わってウチに来たのは、10時過ぎだった。
軽い夜食を出して、シャワーを浴びて、ベッドに入ったのが、多分午前0時過ぎ。
(今…何時かな?)
窓の外から、チュンチュンと雀の声がする。
(もう、朝なんだ)
ついさっき眠ったような、全身を覆う気だるさに、ようやく重い瞼だけが僅かに開いた。
窓に近づき、私のところに光が届かないように、カーテンを半分だけ開けるそらさん。
「んっ、んーー」
その隙間から射し込む朝日に向かって、大きく背伸びをする。
上半身裸のその背中を、私はこっそりベッドの中から見つめた。
普段、華奢に見える、そらさんの身体。
実際は…「日頃鍛えてますから」の、そらさんの言葉どうりに引き締まった身体。
あの逞しい腕に、一晩中抱かれて居たかと思うと、体が火照って来るのを感じた。
少しずつ頭の中がはっきりしてきて、まばたきをしながら目を開くと、そらさんの背中に、うっすら紅い傷跡が見えた。
ちょうど肩胛骨の下辺り。背骨から脇の方にかけて、引っ掻いたような…。
明らかに仕事で負った傷とは違う
…あれは、私の爪跡。
よく見ると、反対の脇の方にも…。
ふっと、数時間前のそらさんとの行為が脳裏に浮かび、私はじっとしているのが苦痛になった。