書き下ろし
□台風の夜
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窓の外は、強い風が吹いていた。
今年初めて、関東地方に接近している台風のせいで、リビングのテレビでは予定を変更して報道番組があってたり、交通情報がひっきりなしにテロップで流れたりしている。
昼頃から吹き始めた風は、段々と強さを増し、星ひとつ見えない真っ暗な夜空からは今にも大粒の雨が降ってきそうだ。
私は、雨戸のシャッターを降ろして、窓ガラスを閉める。
(窓はこれでよし。ベランダの物もしまったし、収納庫も動かないように固定したし、雨戸も閉めたし)
なんとか直撃は免れそうだけど、天気予報では既に強風圏内に入っている。
私はテレビを消すと、ソファーに寝転ってパラパラと雑誌をめくる。
そろそろベッドに入ってもいい時間だけど、この風の音でとても眠れそうにない。
と、突然、雨戸を叩く雨の音が響いた。
とうとう雨も降りだしたらしい。
私は雨の音が聞こえないように、音楽プレーヤーを手に取りイヤホンを耳に着けた。
しばらくして、耳に流れ込む音楽に混じって、不意にチャイムのような音に気付いた。
イヤホンを外すと、
『ピンポーン』
やっぱり玄関のチャイムの音だった。
(こんな時間に、しかもこんな天気に?…まさか)
玄関のドアスコープから外を見て驚く。
「そらさん!?」
急いで玄関を開けると、ずぶ濡れのそらさんが居た。
「ゴメン!寝てた?」
「いいえ、って、それよりどうしたんですか!?こんな台風の中!早く中に入って下さい!」
私は急いでタオルを取りに行き、玄関で靴と靴下を脱いでいるそらさんに渡す。
「ありがと。雨戸で部屋の様子わからなかったから、寝てるんじゃないかと思ったんだけど」
「あ、そっか。スミマセン」
「なんで謝んの。台風来てるんだから当たり前っしょ。逆に安心したよ」
そらさんはいつもの笑顔でウインクした。
「もしかして、心配して来てくれたんですか?」
「もちろん。紗絢ちゃんが怖がってるんじゃないかと思って、仕事終わってソッコー来ちゃった」
心臓がドキンとなって、じわっと温かい気持ちが、心の中に広がる。
こんな暴風雨の中、きっと傘も役にたたなくて、駐車場から家まで走ってくるだけで、それどころか車を降りただけでずぶ濡れになってしまったんだろう。
こんなに私の事をいつも思っててくれて、心配して来てくれるそらさん。
私って、なんて幸せ者なんだろう。
「紗絢ちゃん?どうかした?」
「え?あっいえ。それより、お風呂使って下さい。そのままじゃ風邪ひきます」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」
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