書き下ろし
□With you…
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雨の降り続く7月初旬。
今年の梅雨は例年になく雨が多く、時折激しい雷雨に見舞われながらも、季節はもうすぐ夏を迎えようとしていた。
私は今年買ったばかりのお気に入りのレインブーツで雨を弾かせながら、夏休みの予定の確認の為、官邸に来ていた。
SPルームを覗くと誰も居なかったので、お父さんの居る執務室に向かう。
(相変わらずみんな忙しそう)
考えてみると、最近桂木班のメンバーが揃っているのを見ていない気がする。
(当たり前の事だろうけど、みんな揃ってないと寂しいな。そう言えば、去年のそらさんの誕生日は、みんなで盛り上がって楽しかったなぁ)
今月20日はそらさんの誕生日。
私は去年のそらさんのバースデーパーティーを思い出す。
(昴さん達がサプライズ考えて……。まぁ色々あったけど。もうすぐあれから1年かぁ)
付き合いはじめて2度目のそらさんの誕生日。
(今年は何をプレゼントしようかな)
そんな事を考えながら、執務室の前についてドアをノックしようとして手を止める。
(あれ?ドアが空いてる)
わずかに空いたドアのノブに手をかけると、中からお父さんと桂木さんの話し声が聞こえた。
「それはもう、決定なのかね?」
「はい。あちら側の意向もありまして、是非そらに来て欲しいと」
(え?なに?)
桂木さんの神妙な声に思わず手が止まる。
「それで、帰って来るのはいつ頃になりそうなんだね?」
「向こうに行ってみないとハッキリとはわかりませんが、…おそらく今年は…無理じゃないかと」
(何の話?)
心臓がドキンと音を立てる。
二人の話し方からして、あまりいい話じゃない雰囲気に、嫌な感じがする。
「そうか…。残念だが、それも仕方ないだろう…」
お父さんも、ため息混じりの声で話す。
(何の話?私とそらさんの事…だよね)
「大丈夫ですよ。紗絢ちゃんならわかってくれますって」
(えっ?そらさん?)
ドアの隙間から中を覗くと、お父さんと向かい合って、桂木さんの隣にそらさんが居た。
「総理や班長に気遣ってもらうのは、ありがたいですけど、オレも紗絢ちゃんもこれくらいの事でどうにかなる関係じゃありませんし?」
「そら、お前はともかく紗絢さんの気持ちを考えるとだな」
桂木さんはため息をつきながら、そらさんに向き直る。
「これまでの出張とはわけが違うんだぞ。警護の仕方もこっちとは違うし、休みの日にちょっと帰ってくるって距離でもないんだからな、フランスは」
「えっ!?」
思わず声を出してしまい、立ちすくんでいると、持っていたドアノブが引っ張られた。
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