メインストーリー
□優しいkissを… vol.4
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「すみません、〇×駅まで」
急いで、運転手さんにそう告げると、運転手さんはルームミラー越しに私を見て、
「お客さん、ツイてないね、電車止まってるんだって?初詣?ひょっとして、デート?」
興味深そうに言いながら車を出した。
焦っていた私は、運転手さんに答える余裕もなく、黙って携帯を取り出す。
(そらさんに連絡しないと……)
「もしもし?」
携帯の発信履歴から、そらさんの番号を押すと、呼び出し音が1回なって、すぐにそらさんの声が聞こえた。
「紗絢ちゃん、どうしたの?」
優しい声…。焦る気持ちで一杯だった心の中が、ほわっと暖かくなる。
「そらさん、あの…電車が雪で遅れてて…」
「えっ?マジで?……。迎えに行こうか」
「あっ、いえ、大丈夫です。今、タクシーで来てますから…ただ、時間…間に合いそうになくって…」
「いいよ。そんなに焦らなくて。オレ、待ってるから」
「ごめんなさい」
「紗絢ちゃんのせいじゃないっしょ?仕方ないじゃん。駅に着いたら、また電話してよ」
「はい」
電話を切ると、ため息をついて、窓の外を眺める。
(そらさんに迷惑かけたくなくてお迎え断ったのに、結局迷惑かけちゃった)
お正月飾りが溢れる街の風景。着物姿の人もちらほら見掛ける。
道路の上は溶け始めているのに、街路樹の上や建物の陰には、まだ雪が残っている。
(早く…逢いたいな)
振り袖の袖を膝の上で畳んで、そっと撫でてみる。
昨日、実家から持って帰ってきた振り袖。
(そらさん、喜んでくれるかな? 内緒にしてたから、びっくりするかも)
私は、そらさんが私の振り袖姿を見た時の顔を想像してみて、思わず微笑みを浮かべる。
(それにしても…)
私は、もう一度、窓の外に目をやってみる。
(なんか、ずいぶんゆっくり走ってる気がする)
「あの…すみませんが、急いでもらえますか?」
運転手さんの背中に声を掛けると、
「この雪じゃねぇ、いくらチェーン付けてても無理ですよ」
少しイライラしたように、返事が返ってきた。
(確かに、そうかも…だけど)
私は、何度も携帯で時間を見ながら、心の中がまた、焦りで一杯になっていくのを感じていた。