メインストーリー
□優しいkissを…vol.6
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買い物を終えて、家に戻ると、そらさんはずっと拗ねたまま、ダイニングテーブルの椅子に腰掛けて、テーブルの上に人差し指で“の”の字を書いている。
「そらさん、いつまで拗ねてるんですか?早く用意しないと、真壁さん達来ちゃいますよ?」
野菜を切りながら、話しかけると、そらさんは膨れっ面で答えた。
「だぁって、せっかく紗絢ちゃんと二人で、お鍋しようって思ってたのに…」
私は、まな板の上に包丁を置くと、そらさんの方を振り返る。
「ごめんなさい。私が真壁さん誘ったせいですよね」
そらさんは“の”の字を書いてた手を止め、私を上目遣いで見る。
「いいんだよ、紗絢ちゃんは。あそこで憲太に会ったのが、運のツキっつーか、あの時はあー言うしかなかったっつーか…オレも半分は、憲太ならしょーがないっかぁ、とか思ってたし…。でもさ」
大きなため息を一つつくと、
「アイツぜーったい、桂木班のメンバーに声掛けてるって。マジ、最悪。なんか、ガチャガチャになっちゃいそうじゃん?」
そう言って、テーブルの上に顎を乗せた。
あまりのテンションの下がり具合に、私は可笑しくなってしまう。
「いいじゃないですか。真壁さんが言ってたみたいに、大勢の方が楽しいですよ、きっと。…それに、みんな忙しくて来れるか、まだ分からないし」
出来るだけそう明るく言うと、また野菜を切り始める。
「そっかぁ、それもそうだよね。突然言われても、みんな予定とかある筈だしね」
ウン、ウンとうなずいて自分で納得するそらさん。
(よかった。機嫌なおったみたい)
ほっとして、切った野菜を皿に移そうとしたら、そらさんが私の肩に後ろからおぶさって来た。
「びっくりしたぁ!そらさん?」
「今日は、しょーがないけど、今度絶対、二人でお鍋しようねっ」
「わかりました。じゃ、早く準備しましょ。ほら、そらさんも手伝って下さい」
私は、ドキドキしてるのをごまかすように、体をよじる。
「えーっ、もう少し、いいじゃん。紗絢ちゃんのケチ」
余計に、力を込めて抱きしめられ、私は身動き出来なくなる。
「ケチって言われても…」
『♪ピンポ〜ン』
「あっ、ほら、誰か来た」
インターホンの音で、一瞬そらさんの力が緩んだ隙にそらさんの腕から抜け出すと、玄関まで走って行き、ドアを開けた。
「こんばんは」
「こんばんは、瑞貴さん。どうぞ」
私は、そこにいた瑞貴さんを、部屋の中へ招き入れる。
(真壁さん、ホントに連絡したんだ)
ちょっとだけ、心の中で苦笑い。
「あーっ、瑞貴。そっか、今日非番だったっけ」
「はい。お疲れ様です。そらさん」
キッチンから出てきた、そらさんに挨拶すると、瑞貴さんはリビングの炬燵の上に、持って来た荷物を置く。
「何?それ」
「これですか?タジン鍋ですよ」
袋から取り出したのは、変わった形の鍋。
「あ、知ってます。すごくヘルシーで、人気あるんですよね」
「うん。野菜もたくさん食べれるしね。紗絢さんち、あるか分からなかったから、一応持ってきたんです」
「っつーか、なんでわざわざ、そんなの持って来たんだよ」
「えっ?鍋パーティーするから、各自食べたいもの用意してくるように、海司さんに言われたんですけど…」
「はぁ?海司?アイツも来んの?」
「はい、柔道の練習が終わったら来るって言ってましたから、そろそろ…」
『♪ピンポ〜ン』
玄関まで行くと、
「おーい、俺だ。開けてくれ」
海司の声がした。