メインストーリー

□優しいkissを…vol.9
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「へへっ。充電、充電っと」

「もう…そらさんってば」

玄関を開けた途端、そらさんにギュッと抱き締められる。

「だって、オレのパワーの源は紗絢ちゃんなんだし」

「寒かったでしょ?中に入って下さい」

そらさんの腕の中は、とても居心地がいいけど、さすがにこのままじゃ二人とも風邪引きそうなので、私はそらさんを部屋に招き入れた。


「あれ?演劇部の衣装は?」

「段ボール箱にしまいましたけど?」

「ふ〜ん」

部屋に入って、脱いだジャケットを、ソファーの背もたれに引っ掛けると、コタツに足を入れるそらさん。

「今、飲み物持ってきますね」


私はキッチンで、蜜柑を二つ切りにして搾った。
柑橘系の香りが辺りに広がる。
その果汁をマグカップに移して、お湯を注ぐ。
それに蜂蜜をスプーンでほんの少し。


リビングに戻ると、その香りに真っ先にそらさんが気付く。

「なんかいい匂いがする。蜜柑?」

「はい。どうぞ」

「ありがとう」

コタツの上に、カップを2つ置いて、私もそらさんの向かい側に座る。

「いただきまーす」

「どうですか?」

「あ、ツブツブも入ってて、おいしい」

唇についた蜜柑の果肉を、ペロッと舐めてニコッと笑う。

(カワイイ…って言ったら嫌がるけど。なんの前ぶれもなく、こんな無邪気な笑顔見せられたら…。
これじゃ、年上キラーって呼ばれてたわけだよね。年下の私ですら、母性本能くすぐられるんだから)

「紗絢ちゃん?口、開いてるよ」

「はっ!えと…あの…甘くないですか?」

「うん。でも、ホットレモンは飲んだ事あるけど、ホットオレンジ?」

「はい。母がよく作ってくれたんです。蜜柑が好きで、冬はいつも沢山置いてあったから」

「そっか…。優しい味がするね」

「よかった。簡単だから、寒い夜とか、思い出して作るんです。あ、今度お父さんにも作ってあげようかな」

「うん、きっと、総理喜ぶよ」

そらさんの優しい眼差しに包まれて、私もゆっくりと思い出の味を口に運ぶ。
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