+Toi et moi+

□4 あるがままであること
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セレナの赤みを帯びた黒い瞳がゆらりと揺れ、触れてしまった事を酷く後悔した
しかしその手を離すことが出来なくなっていたのも事実
ジャックは真っ直ぐ見返される瞳に囚われてしまっていた
魔石のように人を魅了し、虜にする
磁石になったかのように引き付けられて、そうすることが仕方がないような、そんな感覚に襲われてる
少しずつ縮まっていくセレナとの距離にジャックはごくりと息を飲んだ

セレナは今、何を思っているのか

頬に触れられ、好きでもない男と縮まる距離
このままでは唇同士が触れあってしまうであろう近い距離

セレナの心は揺れる瞳からは読み取ることが出来ない
ただ真っ直ぐにジャックを見つめて、離れない
もしかしたら、セレナ自身も離せなくなってしまっているのかも知れない

「………っ」

息がかかるほど近づくと、セレナの唇ゆっくりと開く

「ジャ……ック?」

セレナから吐息と共に漏れる声に、目が覚めたように身体が自由になった
思わず触れていたセレナの頬をむにっと摘まむ

「……ガキにはまだ早かったな」

余裕など全く皆無
ただそれを悟られないように装うのが精一杯で、思っていた以上の力でセレナの頬をつねっていたらしい
涙目になったセレナの苦しそうな声がして我に返り、頬から手を離した

「………ジャックぅぅぅ、痛いんだけどぉ?酷いよ」

赤く腫れた頬を擦りながら、セレナは涙の溜まった瞳でジャックを見上げた
ジャックはセレナから瞳を反らし、ソファーから離れていく

「んもぉ、ジャックのばかぁ」

窓辺に移動したジャックは、窓枠に腰掛け外を見た
相変わらず外は深い霧で覆われている
窓ガラスにうつる自分の姿が視界に入り、ジャックは深く息を吐くと口元を手のひらで覆った

正直、危なかった
あのままセレナが名前を呼ばなければ、悔やんでも悔やみきれない事になっていただろう
セレナに近づく事は十分に気を付けた方が良さそうだ
もしかするとクロード達もあの瞳の呪縛に囚われてしまっている可能性も無きにしもあらず
このまま、一緒に旅を続けて行って大丈夫だろうか、など考えてしまっている
少なくとも自分は一国の王子達をお守りする為に共に旅をしているのだ
男達を魅了するあの瞳がとても恐ろしいものにも思えてくる
だか、短いとはいえ今までセレナと接してきて危険に思ったことは無く、ただの取り越し苦労であって欲しいと願う自分もいる

色んな思いと葛藤しながら窓ガラス越しにセレナを見つめるジャック
セレナは食事を用意して戻ってきたメイドと何事もなかったかのように楽しげに話をしている
ジャックは振り返り、その様子を静かに見守った

「ジャック様もいかがですか?」

視線を感じたメイドがジャックに近付き、微笑む

「……っ!…ああ、そうだな」

メイドに促されイスに腰掛けるジャック
セレナはジャックに身体を寄せ、耳元で囁く

「…ね。おねぇさん、凄くキレイでしょ?」

「…………そうだな」

ジャックはテキパキと動くメイドを眺めた

確かに、メイドにしておくのが惜しいほど美しい容姿を持っていた
きちんとしたドレスを身につけたなら、どこかの国の姫と名乗っても、誰もが疑うことはないであろう
きちんとセットされた金糸のような輝く髪と二重のパッチリとした青い瞳
綺麗な指先に目を奪われたりもする
小鳥のさえずりのような声はその容姿を引き立てるに相応しい

「……綺麗、だな」

そう答えるも、なぜか社交辞令的な感覚に襲われた

万人が万人、口を揃えてこのメイドの容姿を綺麗だと言うであろう
ただ
心が揺さぶられる感覚がない
完璧すぎて、どこか作られたそんな感じがした

ふと、視線をセレナに移すと揺れる赤みを帯びた黒い瞳に惹かれる
食事に夢中なセレナと目が合うことはないのが幸いだった
もう一度、見つめられたら離す自信がない

視線をずらし、動く度に揺れるセレナのブラウンの癖っ毛を見つめる


(……その髪に触れてみたい)


沸き上がるそんな思いにジャックは首を横に振った
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