+Toi et moi+

□4 あるがままであること
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騎士たちの手当てを終え、ジャスティス国の城下町フォリオの対岸に着いたアレンたち五人であったが、フォリオを覆う深い霧にそれぞれがため息をついた
湖は一面霧で覆われ、先が見えない

「ここで足止めですね」

馬車を止めたレイシーは辺りを見渡すと、ある場所を見つめた
視線の先には古びた小屋が一軒
そこには三頭の馬が草を食んでいた
馬たちの水のみ場や飼い葉が用意され、誰かが馬の世話をしていたことは間違いないようだった
しかし、辺りに人の気配はない

「クロード様たちがここに立ち寄ったことは間違いないようですが、この霧が晴れるまで城に行くのは無理そうですね」

「………仕方がねぇな」

アレン馬から降りると手綱を引き、他の馬と同様小屋へと連れた

「霧が晴れるまでここで待機だな」

レイシーは馭者席に腰掛け古びた本を読み更け、オーランは荷台に横になり眠りにつく
レオンが焚き火を起こし、湯を沸かすとココアがコーヒーを淹れた
淹れたてのコーヒーをカップ二つ受け取ったレオンは、湖近くの大きな岩に腰掛け、霧の先を見つめるアレンに手渡した

「………ここには魔除けの術がかかってないんですね」

アレンの隣の小さめな石に腰掛けながら、レオンは首を傾げる

「そうみたいだな。……この霧のせいだろう」

深い霧は魔物の目すら覆い隠すのであろう

「それとも………」

アレンは立ち上がると腰を深く落とし、柄に手をかけた
霧の先を一点、見つめた

「どうかしたんですか?」

レオンはアレンの視線の先をたどる
アレンは霧を見つめたまま動くことはない

「……静かに。何かがくる」

ゆらり、と霧の中で黒い影が揺れる
船を漕ぐ音が静かな湖畔にこだました
レイシーは本を静かに閉じると音のする方へと顔を向け、目を細めるとボーガンに手を伸ばした

「ココア、こっちへ」

「はい……」

荷台から飛び出したオーランはココアを呼び寄せると荷台へと乗せ、腰に提げた剣をゆっくりと引き抜いた
五人は静かに息を飲んだ
一艘の船が岸にたどり着く
船からは深くフードを被ったガタイのいい男が軽々と降り立った

「お前は………何だ?」

アランの低い声が響く
フード男は自分に向けられる複数の敵意に満ちた視線をゆっくり見渡すと唯一見える口元を緩ませた

「……怖いなぁ。そんなに睨まないでください」

フード男は両手を上げ、戦う意思がないことをアピールした

「………もう一度聞く。お前は『何』だ?!」

剣の柄を握ったままのアレンの目は獲物を捕らえて離れなかった
上げていた両手を下ろすとフード男は胸の辺りで組み合わせ、口元を一層綻ばせた

「お前は『何』だと問うのか?」

「………人間でも魔の者でもないだろう?」

「素晴らしい。君には『分かるんだ』!!人間と魔の者の違い。そして、それでもない他の者との違い」

「…………」

「だけど、ね。おれはおれだよ?」

アレンは素早く剣を抜くとフード男目掛け走り出すと、間髪入れずフード男に剣を振り下ろした
フード男が後ろに一回転し、アレンの剣をかわすと、はらりとフードが取れた

「………っ!」

黒くて長い髪が風になびいた
ゆらりと赤みを帯びた黒い瞳が露になったフード男は真っ直ぐアレンを見返した

「………その、瞳は?」

柄を握るアレンの手に力が籠った
フード男の右側の口角がにっと、上がる

「ねぇ、あんたに出来る?」

「………何をだ?」

フード男の身体がふわりと浮き上がると空中でうつぶせに寝転がり、両頬に手を当て、再びにこりと笑う

「言ってる意味が、わからねぇ……」

「……守って見せてよ?」

「だれ、を??」

構えていた剣から力が抜けた瞬間、レイシーの声が響いた

「アレン様っ!屈んで下さいっ!!」

身を屈めたアレンの頭上をレイシーが放ったボーガンの矢が音をたて通り抜けた
風を纏うそれはいっぺんの狂いもなくフード男の眉間に突き刺さった

「………ひどいなぁ」

フード男の身体はゆらりと歪み、色が薄まっていく

「一応、痛みは感じるんだよ」

ため息を混じりに呟いたフード男の身体は消えていった

「…………」

辺りは何もなかったかのように静かになった
フード男の姿はない
ことりとボーガンの矢がフード男がいた辺りに落ちた
矢の先には赤い血がヌメリとついている
アレンはそれを拾い上げると霧の先に視線を向けた
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