+Toi et moi+

□4 あるがままであること
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城の東側に位置する古びた搭の一番上にマーガレットの部屋はある
そこは薄暗く、湿気の多い所
まるで幽閉されているかのような場所だった
マロニエの話では、マーガレットは身体が弱く、長い間、とある病を患っているとのこと
一度に沢山の、それも初めての人と会うと疲れさせてしまい病気が悪化しかねない
そんなマーガレットと人と会わせることはマロニエとしては気が進まないが、マーガレット本人の要望で、クロードだけがマーガレットと会うことを許された
がっかりするセレナをクロードは勝ち誇ったように笑みを浮かべ見下ろした

「今……すっごい意地悪な顔してるっ!」

頬を膨らませセレナはトンっとクロードの胸を叩く

「お前の分まで美女を拝んで来てやるよ」

ヒラヒラと片手を振り、クロードはマーガレットの部屋までの案内を任されたメイドの後を付いていった

マーガレットはキャンベル王国の女王であるエルフォードと並ぶ美女と噂高い
運命の相手とは考えられないが、そんな美女に一目会っておくだけでも損は無い
男としての性か
この旅をして案外自分はミーハーだと思い知らされたクロードである
オーランのように性格上、表だって『女の子大好き』と軟弱な事は公言出来ないもの、自分の中の秘めたる部分はやはり『男』なのだと実感する

緩む口元を押さえ、クロードは一つ咳払いをした
部屋の前にたどり着いたメイドが控えめに扉をノックすると、扉の向こうから鈴の音のような声が聞こえた

「失礼します」

メイドがゆっくりと扉を開ける

「…………クロード様中へどうぞ」

メイドに促され、クロードは一歩部屋へと踏み入れる
部屋の中は甘い香りが漂っていた
クロードはその匂いに眉をしかめる
頭の中が痺れるような、妙な感覚に襲われた

「お待ちしておりました、クロード様」

部屋の中に待機していた他のメイド達に促されるまま、部屋の中へと進む

「………」

広い部屋の中央はピンクの布で覆われており、その奥は見ることは出来なかった
布の向こう側には人の気配
そこにマーガレットがいることは間違いないようだったが、その部屋の異様な光景にクロードは息を飲んだ

「…では私たちは席を外しますので、何かございましたらお呼びください」

「……そう。ありがとう」

「ごゆっくり」

クロードに一礼をするメイド達は肩を寄せあい、クスクスと楽しげに部屋を後にする
パタリと閉ざされた扉にクロードの緊張はピークを達した

「………クロード様?」

「………ああ」

「長旅でお疲れでしょう。そちらにお掛けになってください」

クロードは振り返り、近くのソファーに腰掛けた
テーブルの上には入れたての紅茶が準備されていた

「……クロード様」

「は、い」

「……お会いできて、嬉しいです」

マーガレットの声のトーンは明るく、本当に嬉しそうに聞こえるが、その姿は布の向こう側
クロードからはマーガレットの姿を見ることは出来ない
これは果たして『会った』というのか?
クロードは首を傾げる

「えっと………マーガレット姫。その、だな。……姿は見せて貰えないのだろうか?」

「………」

布に写る影がピクリと揺れたように見えた

「え……と、別にこのままでも構わないが…」

それ以上二人には会話らしい会話が生まれず、クロードはソワソワと部屋の中を見回し、話のネタを探るも見つからない
テーブルの上の紅茶に手を伸ばして渇いた口を潤した

「………クロード様」

先に沈黙を破ったのはマーガレットだった
クスクスと笑い声が響く

「沈黙はお嫌い、ですか??」

「……いや」

ズバリ言い当てられたクロードは気まずそうに首の後ろをポリポリと掻いた

「クロード様、一つお聞きしてもよろしいですか?」

「ああ…」

「ご婚約された、とか」

少し間を置いてクロードは頷く

「その方を愛している、のでしょうか?」

「………あ……愛していなきゃ婚約はしないだろう?マーガレット姫は何を聞きたいのか……」

「……私には愛しているようには思えないので」

布の向こう側の笑声にクロードは眉を寄せた

「………なぜ、笑う?」

「あ。気を悪くしたら申し訳ありません。……でも、クロード様は嘘がつくのがあまり上手では無いようなので」

マーガレットの影が動くとベッドが軋む音が聞こえた

「クロード様、どうかこちら側へ……」

布と布の隙間から、白くて細い手が伸びてくる
爪が綺麗に整えられた、美しい手である
美しい手がクロードを手招きするかのようにはゆっくりと動く
その動きにクロードは目を奪われていた
頭が重くなり、何も考えられなくなっていく
操られる様に立ち上がったクロードは足を一歩踏み出し、布の向こう側へと歩みを進めた
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