+Toi et moi+

□4 あるがままであること
19ページ/24ページ

「そんなに悩むことか?……贅沢なやつ」

妃にして欲しいと懇願する沢山の女たちに嫌気がさしていたクロードに、ジャックが笑いながらからかってきた事を不意に思い出した

「なぁ、クロード?『据え膳食わぬは男の恥』とも言うぞ?」

「………」

「オーランほど手当たり次第ってのも問題はあるがな。………言い寄ってくる女性を適当に扱うだけじゃなくて、ちゃんと相手を見てやるのも大事じゃねぇの?運命の相手かも知れねぇかもよ?」

「…………あっちはおれをちゃんと見てるのか?」

ウォーム大国の第一王子であり次期国王となる立場
両親のいいところを受け継いだ外見
一度もまともに話すらしたことのない彼女たちは自分の何を好きと言うのか…

そう…

彼女たちが自分に向ける好意が悪意にしか思えなくて
拒絶するしかなかった




布の向こう側に一歩踏み入れたクロードはその歩みを止めた

「……据え、膳」

クロードの喉の奥がゴクリ、と鳴る
目の前にはこの世のものとは思えないほどの絶世の美女
天蓋付きのベッドの上に横座りをしたマーガレットは、長い金色の髪の毛で身体を隠しているが、その姿は一糸纏わぬ生まれたままだった
胸の前に祈りを捧げる様に指を組み合わせ、クロードを見上げる

「クロード様」

蒼い瞳は真っ直ぐクロードを見つめ、逸らすことはない

「……ずっと、あなたをお待ちしておりました」

クロードは頭上にぶら下がっているピンクの布を荒々しく取ると、マーガレットに投げた

「こ………この身体でも不満というのでしょうか?」

布を頭から掛けられたマーガレットは震える声で尋ねる

「………いや、その……」

クロードは頭の後ろに片手を当て、ばつが悪そうにその頭を掻いた

「クロード様、どうか……」

布がマーガレットの肩を滑り落ち、再びその美しい裸体をさらすと、クロードは直視しないように、視線を天井へと向けた

「………??」

クロードは眉を寄せ、手を伸ばした
頭上に注意して見なければ見えないほど、細く、透明な糸が何本も張り巡らされていた
その一本に触れ、引っ張ってみるもびくともしない
その糸の先を辿るとすべてマーガレットの身体へと延びていた
絡み付く糸はまるで蜘蛛の巣のよう
さしずめマーガレットは蜘蛛の巣に捕らわれた胡蝶
クロードは腰元につけた短剣を取ると一気に振り下ろした
プツリと音を立てて糸は切れた

「……クロード様、お止めくださいっ!!『あれ』がっ!!」

マーガレットは怯えた目で奥の部屋へと振り返った
クロードはマーガレットにつられる形でそちらへと顔を向けた

「……なっ!」

それは静かに近づいて来ていた
六筋の頭胸部と筋が癒合した袋状の腹部
頭胸部には四対の歩脚と一対の解肢を持つそれは、黒い毛に体全体が覆われ、ギラリと光る金色の目をしていた
体長は脚の部分を含めると二メートル弱はある
それは巨大な蜘蛛だった
蜘蛛から放たれる糸がマーガレットを捕らえ、絡み付き、そしてまとわりつく

「……っ!姫っ、手を伸ばせ!!」

「……無理、です」

マーガレットは両目から涙を溢し、首を横に振った

「私は……逃げられない」

クロードは小さく舌打ちする
マーガレットと蜘蛛の間に身体を滑り込ませると、左手でマーガレットを抱き寄せ、右手に構えた短剣で糸を切る

「なぜ、諦めるっ!」

「……………」

クロードはジリジリと近付いてくる蜘蛛へと短剣を構えた
マーガレットを抱き締めた左手から伝わってくるの冷たく、温もりが感じられない体温
そして手に触れる違和感
クロードは蜘蛛からマーガレットの背中へとゆっくり視線を移した
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ