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□ココにいるコト。
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都心のスクランブル交差点は、会社帰りのサラリーマンやOL、制服姿の女子高生で混雑していた。

擦れ違う者同士は、互いが透明人間。器用にぶつかる寸前に避けあってゆく。

無関心な人間達は、擦れ違った少年の両手にぬめりとついた真っ赤な血すら、気にとめる者はいなかった。

白いTシャツにも血は飛び散っていた。

少年の薄い唇から、笑い声が漏れる。


ここに知っている者はいない。


犯してしまった事を知っている者はいない。


やっと救われた、のだ。



「――ゆうき?」

目の前に柔らかそうな赤茶色の髪の毛が揺れた。

頭一個分小さなその人物は、覗き込むように、血だらけの少年の前に立ちはだかった。

「――うわあぁぁぁぁ…。おまえ、怪我してんじゃん」

赤茶毛の少年の大きな声にも、振り向く者はない。

「うるさい」

「だって。だって、だって、だってさぁ。それ、痛そうじゃん。すごく…」

「――男が『だって』言うな」

血だらけの少年は溜め息をつく。

(よりによって、こんな奴に……)

「だってさぁ――…。えっと…とりあえず、病院、行こ?」

血だらけの手を、赤茶毛の少年に躊躇いなしに捕まれ、少年は戸惑ったように言った

「…俺の…じゃないから」

「――でも、…痛いんだろ?」

「……」

赤茶毛の少年は、背負ったランドセルを地面に置くと、ごそごそと中を荒らした。

相変わらず周りの人間は、無関心に二人の事を上手く避けて、擦れ違っていく。

「コレ、ちょっと汗臭いけど……」

くしゃくしゃになったタオルを差し出す。

「――泣く程、痛いんだろ?心が……」

「なんで?」

その時初めて血だらけの少年は、自分が泣いている事に気が付いた。

「なんで泣く?俺が?」

(誰のために?)

少年の瞳からは涙が次々と零れ落ちる。

タオルで拭いても涙は止まらなかった。

「……大丈夫だよ。僕がついてるよ。ずっと、ずーっと。そばにいるよ?」

赤茶毛の少年はうずくまって泣いている少年を包み込むように抱き締めた




ず――っと、一緒だよ



        END




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