Web拍手用Toi et moi

□わかばのころ
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城の敷地内から出る事は禁止されていた
魔物が住み着くこの世界で何が起こるか分からないからだ
城には同じ年頃の子供がいなかった
いつも大人に囲まれていたエルフォードだったが、大人達と大人びた話をするのは嫌いではない。新しい事を知る喜びがあるから
たまに城を訪ねてくる貴族の子供達とは話が合わず、それに合わせるのがときおり窮屈に思えた
だが一番の楽しみはメイド達から城下町の話を聞くことだった
いつかきっと、港町オパールへ行く
そして、レンガ造りの町並みを眺めながら、ジェラートを食べる
夢は膨らむばかりだった
エルフォードは少しずつ集めた布の切れ端で一着のワンピースを作り、兼ねてから計画していた『お城抜け出し作戦』を実行した

物心つく頃から、次期王候補としての勉強尽くしの毎日だった
自由になるのは夕方のたった二時間
行き帰りの時間を考えると一時間しかなかったが、エルフォードにとってその時間さえ貴重なものだった
そして今日も、窓から抜け出すと器用に木をつたって降りる
エルフォードの口元は自然に綻んでいた
軽い足取りで城下へ向けて走り出した

城下に住む同じ頃の子供達が町の公園で鬼ごっこをしている姿が見え始め、エルフォードは走るスピードをあげた

「………また、来たのかよ?」

エルフォードの姿を見つけた子供達は顔を綻ばせ、エルフォードの名を呼んだ
その中でたった一人、アレンだけが眉を寄せてため息をついた

「来てあげたの!私がいないと寂しいかと思って」

「全然っ!寂しくねぇし」

アレンがふんっ、と横に背け、あからさまに嫌そうな態度をとると、子供達はアレンを押し退けエルフォードを取り囲む

「えーっ!わたしは寂しいよ!」

「だよねー」

「おれ達もエルがいると、楽しいぞ」

「なぁ?……アレンだけだぞっ!そんなこと言ってるやつは……」

エルフォードは城下の友達に自分の身分を隠していた
近くの村に住むエルと名乗り、時々父に付いてこの町に来るとだけ自己紹介した
服も継ぎはぎして作った物だった為、疑う者はいかなかった
ただ、美しい金色の髪の毛とライトグリーンの瞳をした美しい容姿を持つ少女はみすぼらしい格好をしていても、その輝きを隠すことは出来なかった
子供達の間ではエルフォードは崇拝されるほど愛されていた

たった一人を除いては

「ちっ……」

ちやほやされるエルフォードにアレンはベッと舌を出す

「どこ行くの?……アレン!!」

エルフォードは公園から出ていくアレンを追いかけた

「付いてくんな!」

アレンは冷たく言い放つとエルフォードから逃げるように駆け出した

「アレンって絶対っ!エルのこと……」

肩を落とすエルフォードの後ろで女の子達の声がする

「だよねー」

「私もそー思うっ!!」

「えっ?」

首を傾げ振り返るエルフォードに女の子達は満面の笑みを浮かべた

「「「好きだよねー」」」

キャッキャッと楽しそうに笑う女の子達

「……女はそればっかだよなー」

「アレンが好きだって言ったのかよ?」

「おれは違うと思うけどなー」

「お前、適当なこと言うなよ!」

男の子達は顔を見合せ抗議する

「うるさーいっ!男子は黙ってて」

「それで?それで?エルはどう思ってるの?」

「ど…どうって」

エルフォードは頬を染め俯く

「あーっ!エルもアレンの事!!」

「うっそー」

「じゃあ、両思いだね!」

女の子達の言葉にエルフォードは更に顔を赤くした

太陽が沈み掛けた頃、エルフォードは子供達とさよならし、お城までの坂道を駆け登った
遊びに夢中になりいつもより公園を出るのが遅くなっていた為、全速力だ
息を切らしながらもお城への道のりはスキップしたくなる位、軽やかだった

(アレンが私の事を好き)

そう思うだけで顔が綻んだ
騎士達に見つからない様に城の中へ入り、エルフォードの部屋のバルコニーへと続く木の下までたどり着いた
大きく息を吐き、エルフォードは木をよじ登る

「……………っ!!」

木からバルコニーへと移るとそこには父である国王セドニーが仁王立ちしていた
城中に響き渡る国王のエルフォードの名を叫ぶ声に、沢山の人間がびくりと身体を震わせた

「………ごめんなさい」

項垂れて、小さく呟くエルフォードをセドニーは優しく抱き締めた

「…毎日はだめだ」

「えっ?」

「週に一度だけ外出は許そう」

涙を流すエルフォードはセドニーを見上げる

「…………いいの?」

セドニーは頷く
エルフォードはセドニーの腕のなかをすり抜け、ぴょんぴょんと跳び跳ねた

「ただし、条件はある」

「うん!何でも聞くわ」

「町からは決して出ない事。騎士を護衛としてつける事」

「…………それって」

(みんなに本当の事を話さなきゃダメって事?)

エルフォードの喉がコクりと鳴った

「お前はこの国の王になるんだ。……何かあってからでは遅い」

「で………でも」

「それが出来ないのであれば、外出は許可出来ない」

エルフォードは頷く事しか出来なかった


予想通り、子供達がエルフォードから明らかに距離を置いたのが分かった

「王女様。………今まで、馴れ馴れしくしてごめんなさい」

そんな言葉を聞きたかったわけではなかった


今まで通りなんて無理だのか?
もう
名前を呼んで貰えないのだろうか?


エルフォードは両手をキュッと握り締め、唇を噛んだ
踵を返し、逃げるように公園から出ようとしたエルフォードは腕を捕まれ、引き戻される

「………エル」

エルフォードは目の前に赤い髪が揺れるのが見えた
黒い瞳に真っ直ぐに見つめられ、エルフォードはポタポタと涙を溢した

「………ア、レン」

アレンは子供達の方へ振り返る

「こいつはエルだろ?………今さら王女様って言われたって……」

ぶっ、とアレンは吹き出すとゲラゲラ笑い出す

「………な、何で笑うのっ!!」

涙を流しながらエルフォードが抗議するとアレンは、エルフォードの頭を軽く叩くとニカッと笑った

「……おれ達と大して変わんねぇよ!単なるガキだ」

子供達は顔を見合せ、頷くとエルフォードの名を呼んだ

「エル!王女が友達だなんておれは鼻が高い。……お前は自慢の友達だ!」

アレンの言葉にみんなが大きく頷いた

「…………アレン……皆、ありがとぉ……」

エルフォードは両手で顔を覆い、止まらない涙を隠した



女の子達は顔を見合せ、こそこそと話をした

「やっぱり、アレンってエルの事……」

「「「好きだよねー」」」

女の子達が暫くその話題で盛り上がっていたのを、当の本人達は知らない
 

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