+Toi et moi+

□1 運命の出会い
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子供の頃から祝い事があるたびに食べていた、老夫婦が営む古びた洋菓子店で予約していたバースデーケーキを受け取った
苺が一杯乗ったケーキをおばあさんが白い箱に詰め、赤いリボンをかけてくれる

「誕生日おめでとう、セレナ」

「ありがとう」

セレナと呼ばれた少女は照れたように微笑んだ

「その服は初めて見るね。王女様のかい?」

膝丈のフリルが沢山ついたスカートの裾を掴み、右足を一歩下げお辞儀をする
頭を上げたセレナはニコリと微笑みクルリと器用に一回転した

「かわいいでしょ?お城のメイド服をリメイクしたんだって。黒いからいつもより目立たなくていいわ」

「それでも十分派手だねえ…。あたしがあんたの歳でもそいつは着れないよ」

おばあさんはふぉふぉふぉっと楽しそうに笑った

「わたしは可愛ければ何でもいいわ」

セレナはおばあさんに代金を支払いケーキの箱を受け取る

「ああ、セレナ。………そうだね。今日は何か特別な事が起きるよ」

セレナはおばあさんの事を小さい頃からずっと、魔女だと思っている
尖った鼻にしゃくれた顎
真っ黒なフードの付いたマントを身に着けている
笑うと歯の所々が抜けて無い
そして時々予言をし、見事に的中させてきた

「それって楽しい事?嫌な事?」

「………どちらもかしら?」

店の奥で何かが落ちる音がしておばあさんは身体をびくりと震わせた

「そういえば、おじいさんは?」

「奥にいるよ…。今ね、息子が来ているのよ」

おばあさんは傍らに掛けてあった杖を取るとドアに向かって歩き出した

「息子?」

セレナは首を小さく傾げる
老夫婦には子供は居ない
ドアを開けるとおばあさんは急かす様にセレナの背を押した

「振り返らずに、真っ直ぐ走るのよ?」

「おじいさんに挨拶を…」

「それはダメ!!……すぐに帰りなさい」

おばあさんは何度も後ろを振り返った

「さあ、早く!!」

おばあさんの肩越しに一人の男が目に入った
背の高い細身の男
表情は無く、青白い顔をした男の片手は金属の鋭い剣になっている
そこには真っ赤な液体が滴り落ちていた

「……な、何??」

「早く!!」

おばあさんがセレナを店の外に追い出しドアを閉めた瞬間、その身体はドアごと男の剣により貫かれる

「!!」

セレナの目の前で赤く染まった剣先が止まった

「逃げなきゃ…」

ケーキの入った箱を抱え一歩一歩後ずさる


―――振りからずに、真っ直ぐ走るのよ?


おばあさんの声が頭にこだまする
踵を返してセレナは坂道を下った

「振り返るな、振り返るな…」

セレナは呪文と唱えるように何度も呟く
何者かが近づいて来るのが分かる
凄く…邪悪なものだ
足がもつれそうになりながらもセレナは全速力で逃げた
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