+Toi et moi+

□4 あるがままであること
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城の東側の塔は最上階以外はメイド達の部屋として使用されていた
螺旋階段を登っていくセレナとジャックの姿をメイド達は、開け放たれた扉から身を隠すように見つめていた
ジャックの後ろを歩くセレナは、階段上を覗き込む様に見上げると、眉をひそめた
スカートの裾を捲り、右太ももに装着されたリボルバーを抜く
その微かな音にジャックは振り返る

「どうした?」

「静かに……」

セレナは口元に左手の人差し指をあてがう

「……上に、魔物の気配がする」

セレナはジャックの前に歩み出ると、身を低くしてゆっくりと、階段を登っていった

「………っ!」

最上階、一室から転げるように、マーガレットを抱き抱えたクロードが飛び出してきた

「クロードっ!」

「……セレナ?……ジャック、逃げろっ!!」

二人に続くように、黒くて毛むくじゃらの脚と頭部が姿を現す
しかし扉をくぐる事が出来ず、外に出ている部分はほんの一部である
巨大な蜘蛛は金色の瞳をセレナへと向けると動きを止めた
それは数秒ほどの短い時間だった

「………」

セレナは蜘蛛に向けていたリボルバーをゆっくりとクロードとマーガレットへ動かした

「セ、…セレナ??」

「クロード、離れて」

「何を言って、る?」

セレナはクロードの腕の中で震えるマーガレットをじっと見つめていた

「離れて」

マーガレットはクロードに身体を寄せ、その身を隠した

「クロード様、助けてっ!」

「……セレナっ!この人はマーガレット姫だ!!その銃を下ろせっ!」

クロードはマーガレットを自分の背に隠す

「……セレナ、説明しろ」

ジャックは部屋から出ようと悶える巨大な蜘蛛へ視線を向けたまま、セレナの肩を掴む
セレナはゆっくり瞳を閉じ、一息ついた

ふと、フード男の言葉が頭に過る


『曇りのない眼で、しっかり見ろ』


再び開かれた瞳は迷いはない
真っ直ぐ、クロードの後ろに隠れたマーガレットを捕らえていた

「………『それ』はマーガレット様じゃない」

「な、何を言って……」

「クロード様……お助け、下さい」

マーガレットはすがるようにクロードの背に顔を埋める
クロードは身体を捻るとマーガレットの背に腕を伸ばした
布越しに触れた『それ』の感触に、眉を寄せ、瞳を伏せた

「…私の方が…あなたを愛している。………必要としている』

マーガレットはクロードへと手を伸ばし、その頬に触れた

「あなたが欲し…」

「クロード」

どこか冷めたようなセレナの声が弱々しいマーガレットの声を遮った
クロードは振り返り、セレナを見つめた
赤みを帯びた黒い瞳が真っ直ぐクロードを見つめ返す

「あなたの、力がほし………い」

クロードは頬に触れるマーガレットの手に手を重ねた
マーガレットは頬を赤く染め、口元に笑みを浮かべた

「………すまない」

「……えっ??」

クロードがマーガレットの手を力任せに引き寄せると、その身体は軽々と床へと倒れた
瞬間、セレナは迷うことなく、マーガレットへ引き金を引いた
発砲音が響き渡る
マーガレットは背中から胸を貫かれた
身体を覆うピンク色の布が溢れた血でじわりと染まっていく
それは赤ではない
緑色のドロリとした体液が背中から床へと広がっていった
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