+Toi et moi+

□4 あるがままであること
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クロードはマーガレットから流れ出る緑の体液を見つめながら、大きく息を吐いた
膝をつき、マーガレットの身体に巻かれた布に手を伸ばす
ゆっくり引かれた布からマーガレットの素肌が現れた
その綺麗な背にはドクドクと波打つ魔石が埋め込まれており、セレナの撃ち込んだ弾丸が真ん中を貫通していた
その魔石の鼓動もだんだんと弱々しくなり、黒から灰色へと変色し、マーガレットの背から転げ落ちた
それと同時、マーガレットの身体は白い煙と共に腐敗していった

「………いったい…」

腐敗したマーガレットの身体に布を掛けたクロードから、再び深いため息が漏れると頭を抱えるように項垂れた

(どうなってるって言うんだ…)

わしゃわしゃと自ら自分の頭を掻き乱すも、答えが出る訳でもなく、クロードは三度めのため息をついた

(……そうだ、セレナは)

クロードはゆっくりと顔を上げるとセレナへと顔を向けた

「………っ!!」

「……セ、セレナ!何…して」

慌てふためくジャックの横で、躊躇なく着ている服を脱いだセレナは、両腿に着けたリボルバーをベルトごと外し、ブーツを脱ぎ捨てた
身につけるものが真っ白なスリップドレスのみとなったセレナは、クロードの元へと駆け寄った

「な、なにしてんだっ!」

「……クロード、信じてくれてありがとう」

にこりと笑みを浮かべると、クロードの足元に転がるナイフを手に取る

「マーガレット様は、多分…」

セレナはゆっくりと振り返るとマーガレットの部屋を見つめた
部屋の入口にいた蜘蛛の姿は今はない

「まだ、間に合う」

「セレナ?」

セレナは素足のまま、部屋へと向けて走り出した
右手でナイフの柄をギュッと握り直し、部屋へと足を進めた
部屋の中は甘い香りが充満している
左手で口元を抑え、顔をしかめたセレナは、部屋の奥へと視線を動かした
部屋の奥で蜘蛛が金色の瞳でセレナをじぃーっと見つめていた
そこからのセレナの行動は素早いものだった
迷うことなく蜘蛛へと駆け出す
蜘蛛が飛ばしてくる糸を避けながら、走る勢いはそのまま、蜘蛛の腹目掛け突き進む
セレナへ振り下ろされた前脚をかわし、滑り込むように蜘蛛の腹の下へと潜り込んだ
構えたナイフを腹に突き刺すと、滑り込んだ勢いを活かし、一気に腹を引き裂く
蜘蛛から飛び散る体液を浴びながらも、セレナは迷うことなく、切り裂いた腹の中へと頭から身体をねじ込んだ
肉を切り裂きながら、蜘蛛の腹の中を進む
クロードとジャックが部屋にたどり着いたときには、セレナの身体は半分以上、蜘蛛の腹の中だった
ひっくり返り、悶える蜘蛛を目の前にし、二人は動けなくなっていた
それは部屋に漂う甘い香りのせいでもあった
身体の動きを鈍らせ、主に神経系に効く速効性の高い毒薬
脳への影響も大きく、正しい判断が出来なくなる代物だ
一般的には出回らない、闇取引きのみ売り買いされる、一部の貴族たちが快楽のために使用する媚薬でもある

「……っ」

目の前でセレナの両足がバタバタと動いた
息を殺し、見守っていた二人だったが、その異様なセレナの足の動きに慌てて駆け寄った
セレナの両足を掴み、こちら側へと引き寄せる

「………っぷは!」

蜘蛛の腹から顔を出したセレナは口に入り込んだ体液を吐き出すと直ぐに、身体を蜘蛛の中へと埋める
少しずつ、セレナの身体は外へと移動する
再び顔を出したセレナの両の手はまだ蜘蛛の中だ

「……引っ張って……」

苦しそうに呟くセレナの声に、クロードとジャックはセレナの身体を抱えるように引っ張り出した
セレナと共に、痩せ細ったマーガレットが蜘蛛の腹の中から救出された
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