+Toi et moi+

□4 あるがままであること
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北の大地、オブシディアン地方
カルセド王国
現在そこには人間と呼べるものは皆無
数十年前、そこは一夜にして魔物の巣窟となる
人々は魔物から逃れるように国を捨てた
カルセド王国は常に闇に包まれ、陽が射すことはない

暗黒の国カルセド
その国に人が近づくことはない



真っ黒い絵
断崖にそびえる、カルセド城
黒く、暗く、闇を帯びる絵
セレナが絵に触れた瞬間、回りは闇に包まれた
身体は自分の意識とは関係なく、小刻みに震えだす
その場に身体を小さく縮め、踞るセレナ
どこからか激しい風がセレナへと吹き付けた


流れ込んでくる、それは記憶?


暖かい布団の中で眠っていたセレナは、赤みを帯びた黒い瞳の者にそこへ連れてこられた

甦る記憶
闇の中で生きていた幼い頃の記憶
そこは陽の光が届かない所
1日中、闇に包まれ、生きるものは人ではない


ここには居たくない

こわい
こわい
こわい………


鋭い牙を持つものがヨダレを垂らしながら後ろを追いかけてくる
走って走って走って……
いくら逃げても後ろを何かが追いかけてきた


セレナをここに連れてきた者が、ニヤニヤと笑みを浮かべセレナに告げる

『戦わなければ、その先は"死"のみだ』


足がもつれ、転んだ先に重なりあう人間の骨
セレナは悲鳴を上げた
慌てて身体を起こすと指に固いものが触れる
それは錆び付いたナイフ
セレナは震える手でナイフを握りしめた

醜い生き物が後ろから襲いかかってくる
セレナは振り返るとその生き物目掛け、ナイフを持つ手を振り下ろした
手に伝わる鈍くて、重い感触と身体に降り注ぐ生き物の生暖かい血
顔にかかった血を拭った手に視線を落としたセレナは、声にならない悲鳴を上げ、その場から逃げた
再び走り続けるも、その闇から抜け出ることは出来なかった


誰か、助けて……


声にならない叫び声
両目から溢れる涙でボヤける視界の先に、一つの影が見えた


******************


「……セレナっ!」

ジャックは謁見室に続く廊下に踞るセレナを見つけ、慌てて駆け寄った
数回名前を呼ぶと、セレナはゆっくり目を開けた

「大丈夫かっ!!」

踞るセレナをジャックが抱き抱えている

「………わたし」

潤んだ瞳で顔を上げ、壁に掛けられた絵を恐る恐る見上げた
そこにあるのはランプの炎に照らされた、色彩豊かな断崖に建つ美しい城の絵

「何があった?」

「…………」

セレナは右手に視線を落とすもそこには血の跡はない
生々しく残る感覚にセレナはコクリと息を飲む

「………何でも、ないの。ちょっと、目眩がしただけ」

ふらつきながら起き上がるとその身体をジャックは支えた

「………部屋に戻るぞ」

「う、ん………っ!」

小さく頷いたセレナをジャックは軽々と横抱きした

「ちょっ、待って!じ、自分で歩けるよっ!」

身動ぎするセレナを冷たい目でジャックは見下ろした

「……足が震えてるぞ?そんな足で歩けるのか?」

「でもっ!」

「うるさい……。お前は人に頼らなすぎだ!こうゆうときは『ありがとう』だろ??」

「………あ、うん。ありがと……ジャック」

「…ん、上出来」

ニッと笑ったジャックは前を向き、歩き始めるも直ぐに歩みを止めた

「………ジャック?」

セレナは首を傾げ、ジャックの視線の先を辿った
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