+Toi et moi+

□4 あるがままであること
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「………何をしている?」

ランプを片手に持つマロニエの姿がそこにはあった
静かな声が廊下に響く
二人に近づくマロニエの顔はランプの炎に照らされているにも関わらず青ざめていた
先刻、謁見した姿とは別人のようにやつれている様にも見えた

「えっと……わたし、あの絵が気にいっ……」

「『セレナ様』のご気分が優れないため、部屋に戻る所です」

「………絵、か」

マロニエは二人の横を通りすぎると、目を細め、城の絵を見上げた

「この絵を手にしてから…………」

マロニエの呟きにセレナとジャックは顔を見合わせる

「絵がどうかしたのですか?」

「………いや」

首を横に振るマロニエは絵を見つめたまま、それ以上何も言わなかった
暫くの沈黙の後、ジャックは小さく息を吐いた

「マロニエ王、我々はこれで失礼致します」

ジャックは一礼をし、マロニエに背を向けて歩き出した

「…………ま、待ってくれっ!」

その声に足を止め、振り向いたジャックはマロニエとの距離が思っていた以上に近く、さらにすがるようにセレナへと手を伸ばしている姿を視界にとらえ、反射的に身体を反転させ、マロニエとの間に身体を滑り込ませた

「……マロニエ王っ、何を!」

「ク……クロードの事を諦めてくれないかっ!」

「えっ?」

「………何を言って………」

マロニエ王はその場に崩れるように座り込み、虚ろな目で二人を見上げた

「娘は……マーガレットはクロードを好いている。わ、わしは娘の願いを叶えたいと思うただの愚かな親だ!…………どうか」

マロニエはそのまま頭を床に擦り付けるように下げた
セレナはジャックに下ろすように言うとマロニエに駆け寄り、両膝をついてその身体を抱き起こした
マロニエはすぐさまセレナの両腕を力任せに握りしめた

「………そなたはまだ若い。これから先、いくらでも他に良い人との出会いはあるだろう!ただ、とは言わん。……そうそなたが望むなら他国の王子との縁談を取り持ってもいいっ!!………望むものなら何でもやろう。わしにできることは何でもする、だから……娘に幸せを…」

「………っ!」

マロニエは溢れんばかりの涙を流した
セレナを掴む両手に力がこもり、ふるふると震える

「……マロニエ王、わたしは何も望むものはありません」

「…………」

「わたしはクロードが他の方を好きに……マーガレット様を好きになったとしたら身を引く覚悟は出来ています」

「えっ?」

「それが運命であるならば、迷わず受け入れます」

マロニエは驚き、掴んだ両手を緩めた
セレナはマロニエの手を取り、その身体を支えるように立ち上がる

「そなたはクロードを愛していないのか?」

セレナは首を傾げると少し間を置いてから、にこりと笑みを浮かべた

「………誰かの幸せを願う、それも『愛している』からだとわたしは思います。もうお分かりではないですか?あなたがマーガレット様の幸せを願う気持ちと一緒です」

真っ直ぐに向けられたセレナの赤みを帯びた黒い瞳が揺れるとマロニエはその色に目を奪われ、喉の奥をコクりと鳴らした



******

「恐ろしい女だな、お前……」

マーガレットの部屋があるという東の塔へと向かう途中、ジャックが眉間にシワを寄せて吐き出すように呟いた

「えっ?」

首を傾げ、セレナはジャックを見上げる

「何が??」

「よくまぁペラペラと、クロードを愛してるかの様に言えたもんだなっ?」

ジャックは手を伸ばし、セレナの頬をギュッと摘まむ

「った!」

「………女って怖ぇな」

頬から手を離し、ジャックはどんどん先へと進んでいった
赤くなった頬を擦りながら、セレナは小走りでジャックの後を追った
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