ねむり姫の永夢
□記憶に宿る雨
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――私ね、雨好きよ
ザーザーと降っている雨天を見上げ、その子は笑った。
――だって、汚いものを全部、全部洗い流してくれるもの
僕はその子の笑みが好きだった。
――雨にうたれるとね?私の中に生まれるどす黒い感情が消えていくのがわかるの
嬉しそうに歌いながら雨の中を踊るその子はとても楽しそうで。
なぜだろう。
その子がそう言うだけでうっとおしい雨がきれいに映る。
不思議な子だ。
不思議な、少し悲しげな顔をする少女。
少女の名はまだ思い出せない。
◇◇◇
「雨……」
ついうとうとしていたら雨粒の音がしてきた。
ザーザーと普段は気にならない音は静寂なこの部屋では煩いぐらいに響く。
「雨、か」
雨だからだろう。
あんな変な夢を見たのは。
「あの、少女は……」
ぼぅ、と雨が降っているのを眺めながら雲雀は一人呟く。
最近見る夢。
おそらく昔の記憶だろうと思われるその夢には必ず一人の少女が出てくる。
ずっと夢に出てくるのになぜか顔と名前が思い出せない。
「あってみたいな」
「誰にだ?」
頭上から聞こえた声に雲雀は反応し一瞬で間合いを冷た。
そして常に隠し持っているお気に入りの武器で急所を狙う。
「うをっ」
慌てた声と共に空をきる音が聞こえた。
「何のよう?跳ね馬」
「いや、とりあえずトンファーしまってくれねーか?」
雲雀は仕方ないと言わんばかりにため息をつきトンファーをしまった。
「いつも思うんだけどさぁ」
雲雀がトンファーをしまったのを確認しディーノは雲雀の横に座った。
畳の床はフローリングと違い温かいようなな気持ちになる。
あくまで気持ちだが。
それに畳独特の匂いもあっていい。
「お前いつもトンファーどこに持ち歩いてんだ?」
「どこって…どこだろう?」
「いや、自分のことだろう」
首を傾げる雲雀にディーノは思わずツッコミを入れた。
「さぁ?気づいたら持ってるし……別にいいじゃない気にしなくても」
お前はどこぞの術士か、と思ったがそれを言った瞬間咬み殺されること間違いないので言いかけた言葉をディーノは飲み込んだ。
「で、なんの用?」
「ん?いやななーんか恭弥の顔が見たくなったんだよ」
「要するに暇なんだね君」
「あ、ばれた?」
あはは。と笑うディーノを雲雀は冷めた目で見つめる。
ディーノはいつもの事なのであまり気にしていない。
「にしても雨すごいなぁー夜までこの調子だってよ。さっき天気予報で言ってた」