ねむり姫の永夢

□終わらない夢と
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穏やかな風が、吹く。
優しく髪を撫でられ、靡く髪を押さえながら雲雀は空を見上げた。
限りないほどに広がった大空。
雲一つない空はどこか寂しい印象を覚えた。

「きょーや!」

「アリス…」

何をすることもなく、ただ空を眺めていた雲雀の元にアリスが駆け寄ってきた。
アリスが駆ける度に、光の加減で金に輝く艶やかな黒髪が跳ねる。
それはまるで踊っているようにも見えた。

「何をしているの?」

雲雀の隣に座り、覗き込むように雲雀を見つめながらアリスは訊いた。

「…空を、眺めていたんだ」

普段、綱吉達が聞いたこともないような優しい口調で雲雀は答えた。

「空?なんで?」

空色の瞳が雲雀を射抜く。
純粋すぎるその瞳はあの頃と何一つ変わらなかった。

「わかんない。…やることがなかったからかな」

「なら遊ぼう!!」

そう言ってアリスは立ち上がり、雲雀の手を掴み立ち上がらせる。
そして、そのまま雲雀の手を引っ張り遊んでいる子ども達の輪に入った。
無邪気な子どもは二人を簡単には受け入れる。
子どもの甲高い笑い声が、草花を揺らし草原を彩る。

「きょーや!」

楽しそうに笑うアリス。
嬉しそうに笑うアリス。
歌うように笑うアリス。
 
「ずっーと、一緒にいようね!!」

その笑みを見て、
そのあまりにも無邪気な笑みに、
そのあまりにも屈託がない笑みに、まるで吸い込まれるような感覚に陥る。


――君にしよう。君は優しいだろうから


耳の奥で何かが木霊した。
けれどそれもすぐに掻き消えて。
雲雀は柔らかくほほ笑む。

「うん。……約束だ」


――約束だよ。……あの子を、よろしくね


また、声が響いた。

「〜〜〜♪〜〜〜♪」

不意にアリスが歌を歌いだした。
その調べがあまりにも優しくて、穏やかで。
寂しくて。
ずっと昔に聞いたことのある曲は、変わらず雲雀の心を捉えてしまう。
そうなったらもう、声のことなんて気にならなくて。
気づいたらそれは溶けて消えた。

その一連を少し離れた場所で白いウサギが悲しげに鼻を鳴らした。


◇◇◇

暗い、世界。
平衡感覚が失ってしまうのでは、と思うほどにこの世界は暗い。

「……これが、雲雀恭弥の精神世界」

ため息をつき、骸は呟いた。
白いウサギに阻まれ、雲雀の精神世界に潜り込めなかった骸。
本当ならそこで放っておけばいいし、現に骸はそうしようとした。
だが、それは急遽止めたのだ。

「さて、あのウサギの正体でも暴きますかね」
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