ねむり姫の永夢

□無邪気な殺人予告
1ページ/3ページ

これは記憶。
古い、古い。一番古い、記憶。
始まりの、記憶。


「うそつき!!きょうはいっしょにゆうえんちに行こうって言ったのに!!」

「すまない。どうしても、休めないんだ」

小さな家。そこで繰り広げられる言い争い。
一つはまだ年端もいかない子どもの声。
もう一つは落ち着いた、大人になりかけている声。

「もういい!!兄様なんてきらい!!」

そう言って、自分の部屋に駆け込む子ども。
それに兄はため息をつきながら、あとを追った。



「兄様なんてきらい。きらい…!」

なんで、なんで。
だって今日は特別な日なのに。
今日は自分の誕生日で。だからずっと一緒にいると言ったのに。
枕に顔を埋めながら、泣く子ども。

「入るぞ」

一言後には自分の近くに人の気配がして。
睨んでやろうかと顔を上げれば、視界いっぱいに広がったのは白色だった。

「ハッピーバースデー」

「……うさぎ?」

タキシードを着た白いうさぎ。
くりくりとした赤い瞳には子どもの顔が映っている。

「誕生日プレゼントだ。いつも寂しい思いをさせているから」

「くれるの?」

「これで、寂しくはないだろう?」

おそるおそる子どもはうさぎの人形を受け取った。
ふわふわとしたうさぎの人形は子どもが抱えるのにちょうどいい大きさだった。

「かわいい」

「許して、くれるか?」

不安そうに尋ねる兄に子どもは嬉しそうに頷いた。
それに兄はほっと安心したように息をつく。

「あ、なまえをつけてあげなくちゃ!!……ゴンザレス!!」

「やめてやれ」

「えー、じゃあ…。ステーキ!」

「おいしそうだな」

「むぅ…。……あ、じゃあ、ラビィ!!」

子どもは嬉しそうに笑いながら人形を高く持ち上げた。

「あなたはきょうからラビィよ!!よろしくね!」

そう言って、子どもはあどけない笑みを惜しげなく人形に向けた。


それが記憶。
古い、古い記憶。一番、古い記憶。
僕の、始まりの記憶。



◇ ◇ ◇



「はぁっ、はぁ、っ。はぁ…ぁ」

大きく肩で息をしながらアリスは息を整えようとしていた。
艶やかな黒髪がその際、肩から零れ落ち、アリスの横顔を隠した。
久しぶりに無茶をした。
いくら自分の夢の中だとしても、指定した者達を強制排除及び、自分達の瞬間移動はさすがに疲れるのだ。

「アリス」

「大丈夫よ、ラビィ」

心配そうに自分を支えるラビィにほほ笑みながら、アリスは言った。

「恭弥は?」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ