ねむり姫の永夢

□肯定しすぎだ馬鹿者
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はじめてであった時はただ、怖いと思った。圧倒的な力。絶対的な地位と、強い意志。それが、彼を彼たらしめているもの。普段の横暴な態度から時々見せる優しさ。それは彼と共に戦っていくうちにわかってきたことで。
それが何となく、嬉しいと思った。彼を理解できているのかとそう思って。きっとそれは自惚れで、彼は嫌がるだろうけれど。
それでも。彼を少しずつわかってきて、頼るだけじゃない。守りたいのだと、頼ってほしいのだと。そう、思うようになったんだ――。


薄く、まるで存在が消えていくかのように雲雀の体が消えていく。それを霞む視界で見つめながら綱吉は手を伸ばした。
駄目だ。行かせない。行かせてはいけない。渡したら、いけない――。
きっと、そうしてしまえば最後、雲雀は自分の手の届かない場所に行ってしまう。

「ダメ……だ」

お願い、行かないで。消えないで。
伸ばしている手は赤く染まっていて。それは自分の血だと、頭の片隅で思った。そうだ、自分はウサギに刺されたのだ。
ウサギ。白い、ウサギ。

「ひば……ん……」

伸ばされた手。それは最後まで雲雀の下に届くことはなかった。


◇ ◇ ◇


――あなたはきょうからラビィよ!!

声が、響く。
甦る。記憶が、思いが。自分の始まりの記憶、一番古い記憶。
僕は何のためにいるのか。それは彼女の為だ。いつも一人な彼女は寂しさでいつも泣いていた。それが嫌で、泣いてほしくなくて。笑っていてほしかった。
だって好きだから。彼女の笑顔が、好きだったから。
名前のなかった自分に名前をくれた。そうして、彼女は自分に楽しそうに、嬉しそうに笑いかけてくれたのだ。
それを見て、思ったのだ。彼女の為に自分はいるのだと。彼女の寂しさを埋めるために、彼女を守るためにいるのだと。
なのに、いつから狂ってしまったのだろう。いつから、こうなってしまったのだろう。
彼女を守りたいと思った。なのに、それは叶わなくて。

「アリス」

気を失っている雲雀の頬を愛しそうに撫でているアリス。その柔らかな笑みから今回の騒動を引き起こした原因なのだとだれが予想するだろうか。ラビィはそんなことを考えながらアリスに声をかけた。

「なぁに?ラビィ」

「止めよう、こんなことをしても何も解決しない」

「何が?」

ラビィの言葉にアリスはきょとんとし、首を傾げた。ラビィの言っている言葉が心底分からない、そう言っている様子だった。
ああ、そうか。ラビィは心の中で嘆く。
彼女はもう、物事の善悪さえ分からなくなってしまったという事か。人を殺すということが、罪と思えなくなってしまったのか。
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