ねむり姫の永夢
□記憶の中の少女
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――ねぇ、どうして…?
何処からか声が聞こえる。
まだ子供っぽさが抜けきっていない声。
不満気なその声は鼓膜を刺激しては通り抜けていく。
――どうして、来てくれないの?
視界の端に黒髪が見えた。
光を受け金に輝く艶やかな髪。
――寂しいよ
気づいたら、女の子が涙を流しながら立っていた。
◇◇◇
「………はぁ」
ぎぃ。椅子の背もたれにもたれ掛かり雲雀はため息をついた。
今の雲雀の見たものは驚愕するであろうだらけた姿をしていた。
机には黄色い鳥が丸くなって寝ている。
そしてその周りには書類の山が。
無能な教師のせいで書類関係はすべて雲雀が受け負っている。
今は十月。
九月に行った体育祭に続き今度は文化祭。
書類処理が追い付かない。
「もういいや」
欠伸を噛みしめ寝ている鳥を起こさないよう気をつけながら胸ポケットに入れる。
帰りの支度をし書類をそのままにして雲雀応接室を出た。
「……ぁ」
悠悠(ユウユウ)と歩を進めていた雲雀は一つ声を漏らし立ち止まった。
風に吹かれゆったりと落ちてくる紅葉。
秋なのだと感じさせるそれに雲雀は見とれた。
自然はいい。
天然で作られたものは人工では作れない美しさを醸し出す。
着飾ったものでもない素朴なもの。
されどそこには今日この日この瞬間にしかない唯一のもの。
四季折々で変わる風景を雲雀は好いていた。
携帯のバイブがなり紅葉に見とれていた雲雀は気分を害した風に眉を寄せた。
「はい」
《あ、恭弥?》
流れ込んでくる声を聞き雲雀は有無を言わずきった。
またバイブがなる。
《なんできるんだよ》
「ごめん。わざとだよ」
《謝る気ないなお前…》
呆れた声は電話ごしで聞こえる。
「用件はなに?」
《ん?ああ、それがな………ぅをっ》
途中で驚いた声が聞こえ続いて聞こえたのは銃声の音とガラスが割れた音。
《わりぃっ恭弥!またかける!》
ぶつっ。と電話がきれる音がしツーツーと虚しく流れる音が聞こえた。
「……なにかあったのかな?」
彼はマフィアだ。
きっと殺し合いやらなんらだろう。
「……ホテル、壊れないといいけど」
なんせ彼――ディーノ達が止まっているホテルは並盛ホテル。
雲雀の愛する並盛のものなのだ。
「まぁいいか」
壊れたら弁償代を請求すればいい。
雲雀は一人納得し自宅へ歩を進めた。
「そういえば…」
ふと、金に輝く黒髪が視界をちらついた。
黒髪なのに金に輝くのはおかしなものだ。