ねむり姫の永夢

□あの日の約束
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「やぁ。こんにちは」

「誰?」

父の仕事の関係で名古屋にしばらく滞在することになった。
これはその日から二日が経った日だ。
特に一緒にいる子もいなくて、一人公園で遊んでいた。
その時に出会った人。
全身が真っ白で、髪さえも真っ白で。
着ていたタキシードも真っ白で、唯一違う色は瞳の色だった。
真っ赤な、真っ赤な色。
まるでウサギみたいだと思った。
白い、ウサギ。

「僕は僕さ」

と、そんなことを目の前の人は言った。

「何それ、名前言いなよ」

当然、そんな言葉に納得できるわけもなく、僕は言った。
そうしたら、彼は愉快そうに笑った。

「はは。じゃあ、ラビィにしようかな。彼女からはそう呼ばれてる」

「ふーん」

ラビィ、と名乗った彼は膝をつき、僕に視線を合わせた。
真っ赤な瞳に僕の顔が映っていた。

「ああ、君にしよう。君は優しいだろうから」

ラビィはそんな、訳の分からない事を言った。

「僕は優しくないよ」

「本当に優しい人は自分を優しいなんて言わないさ」

「屁理屈だ」

「はは。そうかな」

ラビィの言葉に唇を尖らせれば、ラビィはやっぱり愉快そうに笑った。
よく分からない人。
人間じゃあり得ない色を宿した瞳を見つめる。
やっぱり、僕が映っていた。

「今はまだだけど……そうだな、十年後。また、会いにくるよ」

「なんの話し?」

「うん。君はまだ知らなくて良いことだよ」

「ふざけないで」

十年後かなんだかしないが、僕が関係しているのだ。
訳を話してほしい。

「はは。でも、どうせ忘れるから」

「何それ」

「でも、そうだな。うん。思い出した時に、思い出してもらえるよう、話した方が、いいのかな」

ラビィはそんな一人言を呟いて、僕の頭を撫でた。

「ある子の友達になってほしいんだ。その子はとてもさみしがり屋でね。でも、今はひとりぼっちなんだ。だから、友達になってほしい」

そんなくだらないことをラビィは頭を撫でながら言った。

「と、言ってもどうせ忘れるだろうね。なんせ十年経つんだ。忘れてしまっても仕方がない」

十年後のことをなぜかラビィは気にする。
忘れてしまうと言うのなら十年後に言えばいいのに。
そう言おうとしたけど、止めた。
できなかった。
ラビィが薄くぼやけて、消えていってるからだ。

「約束だよ。……あの子を、よろしくね」

ラビィは、約束だと無理やり指切りを交わした。
僕はやっぱりラビィの、ルビーのような瞳を見つめて訊いた。

「その子の名前は?」

ラビィは笑う。
笑う。泣きながら、笑う。泣いて、鳴いて笑う。

「――アリスだよ」

 
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