Lust
□第1章*雨
1ページ/3ページ
梅雨の時期に入り、昨晩からの雨は少しずつ弱くなりつつあるが降り止む気配はしない。
「まったく、何で梅雨なんてものが存在するかなー。」
犯人追跡用の機材を乗せた大型のバンの中、瑞希はモニターを眺めながら零す。モニターにはターゲットが逃走している様子が流れている。
「仕方ないじゃありませんの。」
「そりゃそうなんだけどさ。」
「瑞希は雨の日じゃほとんど使い物にならないもんねぇ。」
桃華はパソコンでデータを整理していた手を止めて、振りかえる。
「あのさー、仮にも零のナンバー3に言う言葉?」
眼鏡を外せばダイジョブなの。と言いながら椅子から立ち上がり武器の確認をする。
「眼鏡というのはこういう時に不便だな。」
今まで窓から外の風景を目で追っていた誓が視線だけを瑞希に向ける。表情という表情はなく、事務的に作業をこなすだけ。そんな様子だ。
「誓、大丈夫ですの?」
「何がだ?」
自分では気が付いてないんですのね。紗良は自分の心の中だけに留め、誓に微笑む。
誓自身は訳が分からないまま、もう一度、窓の外を流れる景色を眺めた。
やがて空華4人を乗せたバンはH-4地区に到着し、目立たない位置へと止める。
「いい、みんな。最後にもう一回だけ、今回のターゲットの確認だよ。ターゲットは西嶋一斗。」
モニターには今回のターゲットの写真、もう一つの画面には監視カメラからの映像が映し出されている。桃華はキーボードを操作しながら、要点だけを簡潔に伝えていく。
「任務開始は3分後、ポイントCの地点から。じゃぁ、3人ともそれぞれのポイントで待機ね。」
桃華の言葉に各々が通信用のイヤホンを装着し、バンから降りる。外に一歩踏み出せば雨が降る世界。一度は弱まったそれもまた強くなりそうな兆しを見せる。
誓、紗良、瑞希の3人は一度視線を合わせ、お互いを確認してから待機ポイントに向かう。