Lust

□幕間V
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 水曜日の朝というのは学生にとっても社会人にとっても実に憂鬱だ。1週間のど真ん中だからなのか疲れが溜まって仕方が無い。
 誓は目を覚ますと上半身を起こし、枕元に投げ捨ててある携帯で現在の時刻を確認する。表示時刻は6:30。久々によく寝た気がするが登校時間にはまだまだ余裕がある。

「今日は晴れ、か。」

 朝の光を遮っていたカーテンを開けると、久々に顔を見せた太陽が薄暗かった部屋を明るくする。光に慣れない目には眩しすぎたのか誓は目を細める。

「久々だな。」

 梅雨時期に珍しく覗いた太陽に小さく笑みを零す。さてと、とひとつ呟き洗面所へと向かう。軽く顔を洗い寝ぼけていた意識を覚醒させる。
 そろそろ朝食の準備をしなければいけないと、誓は各部屋に常設されたキッチンへ立つ。瑞希の分の朝食まで準備するのも今では習慣となった。

「たく、自分で作れない訳じゃないのにな。」

 溜息を吐きながら一人愚痴ってみるも、勿論返答はない。冷蔵庫の扉を開け、卵を2つ取り出す。とりあえず卵焼きでも作ろうか。
 手際よく料理を進めて行く。テンポ良く刻まれる包丁の音が心地よく耳に響く。時計の針は7時を指す一歩手前だ。

「まぁ、こんなもんか。」

 出来上がった2人分の料理をテーブルへと並べて行く。最後に味噌汁を分けていたところで、部屋のドアがノックされる。

「おっはよーさん。朝飯できてる?」

 誓の返事も待たずに図々しく押し入って来た瑞希。テーブルに並んだ朝食を確認すると、いつもの指定席に座る。

「流石だね、誓。今日も旨そう。」

 テーブルにはバランスをしっかり考えた純和食が並んでいる。

「ったく、お前は。いい加減自分で作ったらどうだ?」
「えー、メンドいし。」

 毎朝2人分作るこっちの身にもなってみろ、とは表に出さず、分け終わった味噌汁を最後に並べ誓自身も椅子に座る。

「でもさー、朝から男2人で飯なんて色気の欠片もないよね。」
「なら、自分で作れよ。」
「いやいや、そーゆー意味じゃなくてさ。女の子に作ってもらいたいじゃん?」

 それぞれ適当な料理に箸を伸ばすが、この空間にいるのは男2人。やはり、料理というのは女性に作ってもらいたいと思うのは男の性なのかもしれない。

「なら、紗良にでも作ってもらうか?」
「いや、それは遠慮しとく。」

 それはそれで失礼極まりないのだが、確かに遠慮したい。瑞希は卵焼きに手を伸ばしかけ、そーいえばと登校用の鞄から小型のノートPCを引っ張り出してくる。
 スリープ状態だったPCの電源を入れ、軽く操作して目的の画面を表示させると、誓の方へと画面を見せる。

「ここ、ちょーっと気になる表記があるんだよねー。」

 テーブルに肘を突き、目的のものがあるであろう場所を箸で指し示す。途端、誓の眉間に皺が寄る。

「これ、本物か?」
「ニセモノ見せてどーすんのよ。」
「………。」
「向こうさんも、少しづつ動いてきてるってことだね。」

 誓は少し考える素振りを見せてからおもむろに立ち上がり、自分の分の食器をシンクに持って行く。

「そろそろ、出るぞ。」

 椅子にかけてあったブレザーを羽織ると鞄を持ちドアまでさっさと行ってしまう誓に、瑞希も慌てて食器を片づける。

「早くしろ。」
「ちょっ誓、待って。」

 瑞希は出したままのPCの電源を落としてから鞄に突っ込む。

「つか、誓。今日から衣替えだけど?」

 目の前で真白なブレザーに身を包む誓に、瑞希は半笑いで問いかける。確かに、瑞希は適当なパーカーを羽織っていた。
 衣替えなど全くと言って意識していなかった誓はブレザーを脱ぎベッドに放り投げると、クローゼットから学校指定のジャージを取り出す。

「いやいやいや、誓。それは無いって!」

 流石にそれは無い。と、誓に突っ込みを入れる瑞希。

「まだ、時間あるんだから、カーディガン出せよ。」

 学校指定なら特に問題もないだろうと思い出してきたジャージを真正面から否定され、溜息を吐きながら仕方なくカーディガンを引っ張り出してくる。

「んじゃ、行こっか。」
「瑞希。」

 ドアノブに手をかけた瑞希を誓が呼びとめる。振り返った瞬間、目に入った誓の真剣な顔つき。

「どしたの?」
「さっきのデータ、紗良と桃華には?」
「まだ教えてないよ。」
「なら、あの2人には黙っておけ。」
「……。」
「あの様子だともうすぐ俺に話が回ってくる。」
「だろうね。」

 呟きながらドアを開ける瑞希に続き部屋を出て、鍵を閉める。携帯を確認すれば7:50の表示。登校にはちょうどいい時間だ。

「さて、今日もやりますか。」
「あぁ。長い1日になりそうだ。」


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