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□キッチンパニック
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 昼下がり空華4人は中庭の渡り廊下を歩いていた。校舎内や中庭には昼の放送が流れる。

「やっとお昼だぁー」

ゆったりとしたクラシック音楽を見事に遮ったのは校内放送の蔵田の声だった。

《みんなーおはよー!!いや、今は昼かぁ!》

 N●Kの体操のお兄さんよろしく、素晴らしく高いテンションと音量。音割れがすごい。

「毎回だけど蔵田ちゃんの放送って8割が音割れだよね。」
「ええ、そうですわね。」

 激しい雑音とハウリングの音。特殊部隊として訓練を受けている零の生徒たちは反射的に聞き取ろうと意識を集中させる。

《で、だ。とゆー訳で、今日は料理長がいない土曜日なんだなぁ。各生徒は外で食事を摂るように!》
「そういえば今日、土曜日だったな。」

 学園の料理長は毎週土曜日にいなくなるため、ほとんどの生徒は学園の外で食事をする。そう、ほとんどの生徒だ。

《ただーし!今から読み上げる2班は食堂の使用割り当てになってるから残れよー。空華!月華!この2班は食堂を使うように!以上!》
「高等部に上がって1年以上経ちますけど慣れませんわね。」
「まぁ、食堂の割り当てられるのって2年からだしね。」


 甲高いハウリングを残し、放送が終了する。校内の生徒たちが次々と外出する中、誓たちは食堂に向かう。



 午後の日差しが柔らかく差し込む広い食堂。普段は多くの生徒が入れ替わり立ち替わり食事をする食堂に今日は男女合わせて8人。

「男性陣は退いていて下さいな。」
「とりあえず、ボク等で作るからさ。」

 桃華の言葉に珍しく瑞希と葵が目を合わせる。

「何さ、その目。」
「いや、だってねぇ…桃華。」
「ええ。そこには同意しますよ。」
「ボク、料理下手じゃないんだけど。」

 2人を睨みつける桃華だが瑞希と葵には効果がないようだ。

「はいはい。その位になさって下さいな。桃華、早く作り始めますわよ。」

 女子2人が意気込んで厨房に入っていくのを心配そうに見つめる男子6人。厨房が見える位置に移動する。

「料理長、レシピは置いていってるんだね。」
「んー。何を作りましょうか?」

 レシピ集を眺める横で桃華は冷蔵庫の中身を確認した。

「材料揃ってるしベタにカレーでも作る?」
「そうですわね。料理長特製カレーの作り方も書いてありますし。」

 “下手じゃない”と言っただけあって桃華はテキパキと下準備を始める。

「ホント、上手いんじゃん。」
「みたいだな。まぁ、俺は桃華よりも紗良の方が心配だがな…。」
「鈴宮って如何にも料理できそうじゃない。」
「ん?あぁ、安海…。いや、俺も紗良が料理しているのを見たことがある訳じゃない。」
「じゃー何でだよ?」

 訳が分からないと言った様子の双子は見事にシンクロしながら口を挟む。
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