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□蛙の子は蛙
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 普段は真っ白な制服に身を包んでくぐる校門前に、今日は私服で集合している男女が4人。学園のトップ集団、空華の4人だ。

「ねぇ、ホントにうちでいいの?」

 4人の中でもずば抜けて背の高い瑞希は、眼鏡の奥の瞳に苦笑いを浮かべながら仲間を見つめる。

「だって、ここから一番近いじゃありませんの。」
「そりゃ、そうだけどさー。」
「まぁ、たまにはいいじゃないか。」

 空華4人は親睦を深めるという理由で、お互いの実家に遊びに行こうということになったのだ。
まぁ、親睦を深めるなんてものは後付けで、仲間の家にただ興味があるだけだ。

「しゃーないか。」

 瑞希は溜息混じりに腕時計で時間を確認する。もうすぐ来るな、とタクシーが向かって来るであろう道に目を向けると、ちょうどいいタイミングで車の影が見える。
 手を挙げ合図するとタクシーは校門前で止まり、4人の客を乗せる。運転席には人の良さそうな初老のドライバー。

「えー、本日はどちらまで?」
「田邦総合病院までお願いします。」

 簡潔に行き先を伝えると、桃華が首を傾げる。

「ん?どしたの?」
「病院って?ボクたちは瑞希の家に行きたいんだけど。」
「僕んち病院だよ。」

 狭いタクシーの中に桃華の驚きの声、同時に紗良の笑い声が響く。誓も若干だが驚いているようで、目を見開いている。

「あー、言ってなかったっけね。」

 田邦総合病院――。帝都の中でも一番大きな病院で、総合内科から放射線科まで数多くの診療科が存在し、かなりの有名病院だ。
 はっきり言ってしまえば、瑞希と病院という存在が全く結びつかない。

「私は幼馴染ですし、知ってましたけど。誓もご存じなかったんですのね。」
「あぁ、聞いたこともなかったな。」
「でもさぁ、瑞希っておじいちゃんの代から零じゃなかったっけ?なのに病院?」
「まーね。でもうちはじいちゃん、ばあちゃん含めて全員が医者か看護師だよ。」

 まぁ、血筋だよ。とか何とか適当にその場をごまかしておく。
 窓の外に流れる景色は帝都の中心街であるA地区らしく高層ビルばかり。その中でも群を抜いて大きな建物が見えてくる。

「あちらでよろしいですか?」
「あ、うん。正面玄関でお願いします。」

 駐車場は空き場所がほとんどなく、車が絶えず行き交っている。タクシーは言われた通り正面玄関前で止まり、4人を降ろして去って行った。

「んじゃ、改めて、ここが僕の家。田邦総合病院だよ。」

 こっち。と関係者専用入口に周りさっさと入って行ってしまう瑞希の背中を誓たちは慌てて追った。
 もちろん、院内は沢山の患者、ナース、ドクターで溢れ返っていた。と言っても、全ての対応が一流で、ナースもドクターも笑顔で患者と接している。

「まぁ、瑞希坊ちゃん。お帰りなさい。」
「帰ってきて下さったんですね。」

 すれ違うナースとドクターは次々とあいさつをしてくる。瑞希もそれに笑顔を返せば、深いお辞儀をし去って行く。

「坊ちゃんねぇ。」
「桃華。顔、ニヤけてますわよ。」
「だって、仕方ないじゃん。」
「まぁ、こいつが坊ちゃんって柄じゃないしな。」
「うーん。皆ヒドくない?」
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