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□火のない所に煙はたたない
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カーテンから覗くのは暖かい陽の光。その光に照らされるのは2人の学生。
「だから、それじゃすぐバレるって。」
「ってなると、葵をネタにってのは無理じゃねぇか?」
月華1stの双子、園田優弥と園田秀弥だ。双子は一カ月近く前からあるイベントのため計画を練っている。しかも、自分たちの仲間を使ったネタだ。
「んじゃ、葵やめて安海にするか。」
「安海は安海で決定打にかけるよなー。」
ベッドの上に仰向けで身を投げ出すのは優弥。その周りには考えていたネタが書き殴られた紙が散らばっている。秀弥もボールペンの端を口に咥えながら周りの紙の山を眺めると、ハッとしたように机に向かう。咥えていたボールペンで何かを書き殴る。
「なあ、優弥。こんなんどう?」
秀弥が目の前に突き出してきた紙の内容を一通り読んでから、優弥は口の端を釣り上げる。双子は互いの視線を合わせ、頭上でハイタッチをした。
こうして、学園の中で小さくも大きい実に馬鹿げた陰謀が動き始めたのだった。
そして、イベント当日。双子は朝、教室に着くとすぐに昨日まで考えに考えたあることを広め始めた。
「なぁ、お前ら。知ってるか?実は」
それは誰にも不信感を抱かれることなく、順調に、それは学園内に浸透し始めたのだ。まるで、水面を波紋が広がって行くように。
1時限目から蔵田の騒がしい授業を受け、2,3時限はプロファイリングで脳をフル回転させ、4時限は実戦訓練とくれば、いくら優秀な安海でも結構な疲労度だ。
なんとか午前の授業を受け終わり、現在は昼休み真っ只中。午前の授業の疲れを癒すため校内にあるカフェテリアに向かおうと、安海は葵と渡り廊下を、歩いていた。
ガラス張りの天井や壁からは、春の心地好い日差しが差し込んでいる。しかし、先刻からやたらと嫌な視線を感じる。もちろん、カフェテリアへ向かう途中も到着してからも、だ。
殺気とかそういう類ではない、生徒たちから向けられる謎の視線だ。どちらかと言うと哀れみに近いような気さえする。
「ねぇ、一体何だって言うの?」
「何がですか?」
「さっきから変な視線を感じてならないんだけど。」
安海は無意識のうちに周りを睨み付ける。周囲の生徒たちはヤバいと瞬時に悟り、視線をテーブルの上の食事へ移す。
「まったく、これじゃ落ち着いて昼食もとれないじゃないか。」
「まぁ、普段は優と秀がいるので、落ち着いて食事した経験なんてありませんけど。」
コーヒーの満ちたカップに口を付けながら葵は呆れたように言う。安海も目の前にあるサンドウィッチに手を伸ばしながら、ふと気が付く。
「そういえば、今日は優弥と秀弥を見ないね。」
「確かに授業には参加しているようですけど、休憩に入ると姿が見えなくなりますね。」
2人が周りを見渡すが目立つ双子の姿は見当たらない。まぁ、くだらないことでもやっているのだろうと、特に気にする様子もなく昼食をとることにした。