Lust

□序章*零
2ページ/4ページ


「おい、今度はお前の山だって?管野。」
「もぅショックですよぉ。無罪になった田嶋正也。」
「もう少しで尻尾つかめたのにな菫ちゃん。」

 警察庁第五係刑事課レストルームには刑事3年目の同期3人組。管野菫、小山翼、菊地龍太は係内でも有名な3バカだ。
 昼休み真っ只中の今、話題はたった1つで持ちきりだった。
 先日まで寝る間も惜しんで張り込んでいた星が遺体となってしまったのだ。

「また零かーっ。」

 翼が悔しそうに表情を歪め壁に拳を叩き付ける。

「張り込みの甲斐あってって感じでしたのにねぇ。」
「まさか、俺たち五係の前で殺るなんてさ。」
「ほんとですよねぇ。」

 法と云うのは常に万能ではない。犯人の目星は付いていても状況証拠ばかりで物的証拠がなく逮捕に至らないもの。証拠不十分で情状酌量になったもの。その度に犯人が死体で発見されるのだ。
 殺した奴らは分かっている。零だ――。

「証拠さえ見つければこっちのモンなのに。とっとと殺しちまうんだもんな。」
「この前は龍さんの、その前は翼さんの山ですもんねぇ。」
「俺らの山ばっかりだな…。」
「張り込みのプロの目も振り切ってだもんな。全く嫌になるぜ。」

 五係の捜査は足で勝負。意地でも証拠を見つけ出し犯人の逮捕に繋げる、検挙率bPの係だ。一方で零は五係が追っていた犯人を片っ端から殺していく。考え方が根本的に違うのだ。

「でも、最近は誤認殺害が無くなりましたものねぇ。その分、百歩譲ってマシになりましたよねぇ」
「何が誤認だ。んなこと関係ねぇ…俺は零を許さない。…絶対にだ」

 突然、入口から聞こえてきた声に驚き、菫、翼、龍太の3人は同時に振り替える。

「部長…っ」

 部長と呼ばれた男は3人の上司である坂牧誠二。40代半ばの敏腕刑事だ。
 零によほどの恨みがあるのか普段の温和な表情から一変、苦虫を噛み潰したような表情と厳しい口調に、周りにいた部下たちは驚いたように坂牧の見つめる。
 それに気がついた坂牧はハッとして、何とかその場の空気を元に戻そうと、老眼鏡をネクタイで拭きながら、なーんてなっ。とおどけて見せる。

「…いつもの坂牧さん、だよな…?」
「なんかぁ、一瞬だけ違う人に見えませんでしたかぁ?」
「あ、あぁ。空気が違った気がしたぜ…。」
「ほら、管野、小山、菊地!!昼休み終わるぞ〜。」

 と、抜けた口調に部下たちも、気のせいじゃねぇ?と結局、深く追求しないまま終わった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ