Lust

□序章*零
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 警察庁第零係。幼稚舎から高等部までで構成され、初等部から特殊訓練が開始する。その高等部の生徒たちこそが零と呼ばれる存在だ。
学園そのものは警察庁に存在するが、刑事たちは学園への立ち入りを堅く禁じられている。立ち入ったものは懲戒免職処分とされ、職務から追放される。

 日が差し込む教室、昼休みの今は教室に笑い声が溢れる。任務に向かえば人を殺すことをも厭わない彼等も普段は普通の高校生と変わらず、授業があれば休日もある。
 高野誓、鈴宮紗良の2人も窓際の席を陣取り次の任務についての話を繰り広げている最中だった。他の生徒たちも様々な話題に花を咲かせている教室に大きな音が鳴り響く。扉を勢いよく開け入って来たのは田邦瑞希。誓と紗良の班員だ。
 
「誓!今月のランキング発表になってるってよ。」

 ランキングとは任務遂行率のランキングであり、それにより来月から与えられる任務のレベルが決まる。生徒たちとしては少しでもレベルの高い任務を任せてもらえるよう、奮闘するのだ。

「ふっ!今月は僕たち月華1がトップをいただくよ。」

 現われたのは須藤安海。誓たちが所属する空華の一つ下、月華のリーダー。その後ろには一見しただけでは見分けが付かない双子。園田優弥と秀弥の声が奇麗に被る。

「なぁ、別にトップだろーが2位だろーがさして変わんねーじゃん。」
「優、秀、いい加減にしなよ。君たちがそんなだから万年2位なんて屈辱的な呼ばれ方されてるんだよ。」
「げ、俺たちの所為かよ!なぁ、秀弥。」
「ほんとだよ。別に手ぇ抜いてる訳じゃねぇし。」

 喧嘩が始りそうだがいつものことだと無視をして渡り廊下の掲示板に向かう。後ろからはまだ3人の声があれやこれやと言い合っている。
 渡り廊下に着けば、皆がランキングに目を通そうと掲示板前が人で溢れ返っている。あそこに足を踏み入れなければいけないのかと誓は反射的に溜息を吐く。すると、数人の生徒が誓たちに気が付いたようで他の生徒に呼びかける。

「おい、お前ら、避けろ。」
「あ?何でだよ…げっ!」
「みんな避けろ!空華と月華が来たぞ!」

 その場にいた生徒たちが口ぐちに騒ぎだしたと思えば、徐々に掲示板の周りから人が離れて行く。生徒たちにとって、彼等はそれほどの存在なのだ。
 安海は当たり前だというように人で出来た道を歩いて行く。それを見て、誓はまた溜息を吐く。

「やっぱりねー。」
「やっぱりってどういうこと?僕たちが負けるって初めから分かってた言い方だね。」
「だってねー、秀弥。」
「だよなー。」

 安海は今にも張り出された模造紙を破り取らん勢いで双子に食ってかかる。当の双子は結果は当たり前だというようで、安海の怒りなど何所吹く風だ。
 ランキング結果を見れば両班とも遂行率100%で同率。任務のレベルの違いによって空華がトップとなっている。

「やっぱり、またこの2組か。」
「ここ抜くのは無理だよ。」

 またしても生徒たちが騒ぎだす。しかし、トップの座を奪い取ることができなかった安海からすれば、その言葉一つひとつが癇に障る訳で、双子が必至になだめている。

《月華、須藤安海、園田優弥、園田秀弥。至急、作戦室Aに向かいなさい。》
「ほら、安海。俺らの出番だよ。」

 ざわめきをかき消すような放送は、月華に召集を呼び掛けるものであり、秀弥はほっとしたように安海に声をかける。

「ふっ、高野、召集がかからなくて残念だったね。ランキングはランキング、学園は君たちより僕たちを必要としているみたいだよ。」
「はぁ、分かったから、早く行ったらどうだ?緊急の呼び出しだろ。」

 誓の言葉に一つ舌打ちを残し、呼び出された作戦室へと走る。その背中に誓は本日何度目かの溜息をこぼせば、それと同時に午後の予鈴が鳴り響く。

「教室に戻るぞ。」
「りょうかーい。」
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