Lust

□序章*零
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 教室へと戻れば待ってましたとばかりに午後の始業のチャイムが、昼休みのざわめきを掻き消す。誓たちは3人隣り合った席に座る。

「次って誰の授業だっけ?」
「蔵田先生の東洋史ですわ。」
「そーゆー教科名聞くと僕たちも高校生なんだなーって思わない?」
「何言っているんだ。俺たちはれっきとした高校生だろ。」

 何度も言うようだが彼等は任務以外は普通の高校生と変わらないのだ。もちろん、特殊な授業は数多く存在する。

「みんなー!揃ってるなー!」

 かなりの勢いでドアを開け、叫びながら教室に入って来たのは教科担当の蔵田望夢だ。防音加工を施された教室内に盛大に声が反響する。相も変わらずジャージの上に教師用の白いロングコートを羽織っている。せめて、前は閉めてほしい。

「月華は任務に向かったんだったな。」
「蔵田ちゃんさー、教室でそこまで叫ばなくてもいんじゃない?」

 椅子の背もたれにだらしなく寄り掛かりながら、無駄だと分かっていても遠回しにうるさいと告げてみる。

「田邦―!お前はまた、誰が蔵田ちゃんだ!まったく教師に敬意を払え!」

 叫び声は結局余計に大きくなり、生徒たちの何人かは耳を塞いだ。




 午後の授業も無事に終わり放課後になる。今日は久々に任務なしで終わりそうだ。
 まだ日差しの暖かい中庭のベンチで誓は文庫本を広げる。瑞希はそんな誓の肩を借りて昼寝をしている。その横では紗良が誰かと電話をしている。

「あーいたいた。みんなお疲れぇ。」

 携帯を手に人懐っこい笑みを浮かべながら駆け寄ってくるのは空華の諜報担当、美空桃華だ。

「お疲れ様ですわ。桃華。」
「なぁに、瑞希また寝てるのぉ?」
「桃華、この馬鹿を何とかしてくれ。肩が重くて仕方がない。」

 誓からの訴えに桃華は瑞希に顔を近づけて頬に人差し指を突き立てる。決して突き立てると言う表現が間違っている訳ではなく、本当に突き立てているのだ。つつくではない。
 瑞希からは心底、痛いというような呻き声が聞こえる。

「い…ったい!…って桃華ぁ。普通、こういう時って優しく呼ぶとか軽く突っつくとかさー色々あるじゃん。」
「だから突っついたじゃん。」

 今のは突き立てたんだと心の中で突っ込んでおいて、とりあえずその話題は終わらせる。

「そういえば今日は珍しく任務がありませんわね。一体どうしたんでしょうか?」
「あーそれねぇ。」

 桃華は何か思い当たる節があるらしく、瑞希に突き立てた指を今度は自分の顎に当て少し考える素振りをみせる。

「実はさぁ、最近の任務ってボクたちに回ることのが多かったでしょ?だから、葵が先生たちにちょぉっと抗議したんだよねぇ。」
「そうゆうことだったのか。」

 そこそこのレベルの任務なら下の隊に任せられるが、難しいと判断されれば問答無用で空華に回される。そのため、安海たちは空華がいない埋め合わせとして任務を任されるのだ。

「まーゆっくりと調べ物もできるしいんじゃないの?」

 調べ物。他の生徒に絶対に知られてはいけないものであり、誓たち空華4人は小学生の頃から少しずつ情報を集め続けているものだった。
 彼等だけの秘密――。

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